現代の巡礼や祝祭の記録を未来に向けて書き残す
「四国八十八か所」における巡礼とは
聖地をめぐる旅である「巡礼」は世界中で宗教儀礼として行われています。日本にもさまざまな「巡礼」がありますが、中でも弘法大師ゆかりの寺院をめぐる「四国八十八か所」には、独特の風習があります。弘法大師の教えを守っているのは、巡礼者だけではありません。四国で巡礼者を迎える土地の人たちにも信仰が根付いているため、「接待」という独自の文化が受け継がれています。「接待」とは、巡礼者であれば誰にでも分け隔てなく食べ物などを分け与えることです。「接待」によって一定レベルの施しが受けられるため、かつてはほかの場所では生きられず生活に困っていても、巡礼者としてなら生きられる、という人も多くいたとされています。そのため、巡礼が「社会的悪」と捉えられていた時期もありました。
「接待」文化の中で生まれたもの
一方で、「接待」には、その土地で「与える」という独自の文化が芽生えただけではなく、思わぬ発展もあります。過疎化が進んでいる地域にも、外国人や、若い人などさまざまな人が巡礼者として訪れます。地元の人たちも、これがなければ来るはずのなかった人たちとの交流が刺激となり、楽しんでいるのです。「四国遍路」がその地域の個性となり、巡礼が結ぶ縁によって彩りがもたらされているともいえます。「接待」文化を通して、人と人が支え合い、土地の温かさが生まれています。
現代に生きていることが歴史になる
巡礼には、数年おきに御開帳などの大きな祝祭があります。特に宗祖の命日を記念する50年周期のイベント「御遠忌」などは「この時代のこのとき」1回きりです。時代に応じた改変や創造もあるため、書き残されることによって現代の出来事として歴史化していきます。新型コロナウイルスの影響で、巡礼や祝祭の方法にも変化が出たことも歴史的には重要です。「コロナ禍に巡礼がどう対応したか」は、私たちの思いや考えを浮き彫りにする現代の象徴となり、未来の研究者のために書き残す価値あるものとなるのです。
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埼玉県立大学 保健医療福祉学部 共通教育科 准教授 浅川 泰宏 先生
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