シカの増えすぎが生態系に与える影響と解決策
増え続ける日本のシカ
ここ30~40年ほど、日本の山では野生のシカが増え続けています。シカは20世紀初頭に天敵であるオオカミが絶滅した後、狩猟によって増加が抑えられてきましたが、狩猟人口が減ったために現在は増える一方で、農林業被害や自然生態系への影響が問題となっています。
野生動物と人間生活の衝突の科学的解決に取り組み始めたのは100年ほど前のアメリカです。初めは駆除という方法が考えられましたが、自然保護の重要性が認識されるようになってからは、自然とうまく付き合いながら人間の産業を守っていこうという考え方に変化してきました。
深刻な生態系への悪影響
シカが増えている問題に関する研究では、生物学的アプローチが有効です。例えば、シカの増加が生態系にどのような影響を与えているかを調べる研究が行われています。シカは植物を食べますが、この植物はほかの生物も利用しているので、シカと同じ草を食べるネズミが減ったり、その植物だけを食べる幼虫が育たないためにある種のチョウが減ったりという現象が見られます。逆にシカにとって毒性のある植物は減らないので、それを食べる虫が大量発生するなどの影響も確認されています。こうして生態系のバランスが変わってしまうのです。
生態系を守るための方法の模索
シカが増えるようになった最大の原因はオオカミが絶滅したことです。狩猟の重要性が認識されつつあるとはいうものの、人間は入りやすい場所でしか狩りをしないので、数を減らすまでにはなっていません。考えられる1つの解決策は、例えば生態系の頂点の捕食者であるオオカミを導入することです。アメリカのイエローストーン国立公園では、実際にこの方法が取られました。日本ではオオカミに対する恐怖心や「人間が原因なのにオオカミに殺させるのは人間の身勝手だ」などの考え方が強く、実現しそうにありません。アメリカの法律では、人間が原因で絶滅した種は復活させるとされているのですが、日本に同様の法律はありません。こうした法律の整備も課題だと考えられています。
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立正大学 地球環境科学部 環境システム学科 教授 須田 知樹 先生
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