がん抑制遺伝子の進化にまつわる謎
細胞増殖の制御とがん抑制遺伝子Cdkn2
私たちを含む多細胞生物の身体は多くの細胞から成り立っています。これらの細胞の増殖が適切に制御されることで、その生物本来の身体の形態が生じ、また健康が維持されます。逆に細胞増殖が異常になると例えば「がん」の発症につながります。細胞増殖の制御には、アクセル役の「がん遺伝子」と、ブレーキ役の「がん抑制遺伝子」が関与します。特に重要ながん抑制遺伝子の1つが「Cdkn2」で、哺乳類には4つ(Cdkn2a, b, c, d)存在します。Cdkn2遺伝子で変異が起きると、ヒトではがんの発症リスクが増大します。
Cdkn2遺伝子の数とがんのリスクの関係は?
一方、ニワトリはCdkn2b遺伝子とCdkn2c遺伝子しか持ちませんし、フグも3つしかCdkn2遺伝子を持っていません。では、Cdkn2遺伝子が少ない生物でがんが多発するかどうかと言うと、それは、まだよく分かっていません。また、ハダカデバネズミという哺乳類はがんになりにくく長生きですが、その理由の1つとして、Cdkn2aとCdkn2bの両方に由来する特殊な合体タンパク質が生ずるからであることが報告されています。Cdkn2遺伝子の数や、そこから作られるタンパク質の構造と、生物種毎のがんのなりやすさ・なりにくさに関する研究は発展途上であり、今後も興味深い発見が期待されます。
なぜCdkn2を持つ種と持たない種が存在する?
更に、無脊椎動物では、そもそもCdkn2遺伝子を持たない種が多く存在することが分かってきました。例えば、サンゴやクラゲなどの始原的な無脊椎動物はCdkn2を持ちません。このことから、動物進化の過程で、始原的な無脊椎動物とそれ以外に分かれた後で、Cdkn2が出現したと推測されます。そこから更に進化する間に、一部の生物種ではCdkn2が失われていったようですが、その理由もまだわかっていません。今後、さまざまな生物種の遺伝情報を比較することで、生物進化の謎の一端が明らかになることが期待されます。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科 生命コース(令和7年度から農学部 動物科学・水産科学科 動物科学コース所属) 准教授 荒木 功人 先生
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