鯨の遺骸に群がる生物が生態系の鍵を握る
生物は死して「腐る」
生き物の遺骸は、分解されて別の生き物の糧になり、生態系の中で循環します。遺骸が「腐る」ことは生態系の重要なフェーズの一つなのです。遺骸がどのように分解されて、そこにどんな生物がどのように関わっているのかを地質時代から現在まで突き詰めていくと、地球全体の生態系の成り立ちや生物の進化の過程などに関する重要な知見が得られます。
鯨の遺骸に群がる生物たち
現在の地球上で最大の動物は鯨です。以前、有人潜水調査船「しんかい」が水深約4,000mの深海を調査しているときに、海底に沈んだ鯨の骨を発見しました。そしてその骨をさまざまな生き物が食べていました。骨は多くの場合、半分以上が有機物です。有機物の供給が少ない深海では鯨の骨は貴重な栄養源なのです。一方で、有機物が分解する過程で出て来る硫化水素は生物にとっては強力な毒です。この硫化水素を無毒化するシステムを備えた生物だけが貴重なエサにありつくことができ、自然淘汰(とうた)が生じます。
海底で熱水やメタンガスが噴出している場所には、硫化水素を無毒化するのみならず、直接的にエネルギーとして利用して自ら有機物をつくりだす生物もいます。これらの生物の一部は遺骸に群がる生物が極限環境に進出したものであることが、DNA解析から明らかになっています。
深海の生態系を知ることで適切な環境保全を
約5,000万年前に鯨が登場する前の海洋では、首長竜やウミガメの遺骸が深海の生物の大きな栄養源になっていたことが化石からわかっています。ウミガメは現在も生き残っており、ウミガメの遺骸の分解過程を研究することが過去と現在をつなぐ糸になります。
地球の表面の7割が海で、海の体積の9割は深海です。深海の生物は地球の気候や環境に大きな役割を果たしています。しかし、深海で生物がどこでどのように暮らし、その場所の環境がそれぞれどういう機能を持っているのかについて、人類はまだ多くを知りません。適切な環境保全を行うためにも、深海生態系の研究が必要とされているのです。
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先生情報 / 大学情報
金沢大学 理工学域 地球社会基盤学類 准教授 ジェンキンズ ロバート 先生
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