森の尿検査をする? 目に見えない森林の異変調査とは
拡大する森林の被害
日本には多くの森林がありますが、さまざまな原因によってダメージを受け、良好な環境を保てなくなっている事例が増えています。例えば、ある場所のシカによる森林被害では、シカの口が届く範囲にある植物が食べ尽くされて土壌がむき出しになりました。森林は上層、中層、下層の3層に植物を張り巡らせることによって環境を保っています。そのため、どこかひとつでも層が欠けると物質循環などのバランスが崩れ、森林の持つ多面的な機能の一部が失われてしまうのです。
水質調査は森の尿検査
森林の被害を食い止めるためには、異変を察知して対処しなければなりません。しかし人の目で見ただけでは、森林の外観があまり変わらない初期段階で被害に気づくのは困難です。そこで行われている方法が水質調査です。渓流水や地下水などに含まれる物質の種類や量が正常ではない場合、何か問題があると考えられます。人間でいえば尿検査のようなもので、外観に現れていない異常を、森林から流出する水の成分を調査することで早期発見を試みるのです。
北海道では、外観が同じような森林でも、水に含まれる窒素量に大きな差が出た事例がありました。森林はもともと栄養分としての窒素が少ない状態で成り立っており、川へ流出する窒素は少ないはずです。窒素の流出が多いその森林は、近くに牧草地がありました。化学肥料や動物由来の堆肥に含まれる窒素が牧草地の地下水にしみ込み、境界を越えて森林の川底から湧き出していると考えられたのです。
森林被害は地球全体の問題
森林の水質が変化すると、離れた場所にも影響が出る可能性があります。例えば木を切り過ぎると、森林内で使い切れなくなった窒素成分が川や地下水に流出します。すると水中に住む生き物に負担をかけたり、海の水質を変化させたりと、連鎖的な悪影響が出てくるおそれがあります。地球の環境を守るためにも、森、人里、海のつながりを考えて、それぞれがどう影響し合っているのかを探り、適切な対策や管理方法を提案することが研究者に求められています。
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先生情報 / 大学情報
福島大学 食農学類 准教授 福島 慶太郎 先生
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