森にすむネズミだって、学習している!

森にすむネズミだって、学習している!

アカネズミの自己学習

森にすむアカネズミという野ネズミは、オニグルミという野生のクルミを好んで食べます。オニグルミは殻が硬く、中身を食べるには、効率的に穴があけられる場所を見極めてかじる必要があります。その方法を、アカネズミは、「学習」により身につけていることが実験で明らかになりました。オニグルミが育たない森で捕獲したアカネズミに毎日1つずつオニグルミを与えると、最初は殻のあちこちをかじっていたものが、2週間もすると、最も効率よく中身を食べられる場所をかじるようになりました。つまり、アカネズミは自己学習によって穴をあける最適な場所を見つけたのです。

母親の行動を見て学習する

アカネズミは仲間の行動を観察して最適な穴のあけ場所を覚えることもあります。まず、オニグルミに上手に穴をあけられる母親ネズミに子どもを産ませます。そうして、毎日オニグルミを1つずつ与えて子育てをするグループと、オニグルミをまったく与えないで子育てをするグループに分けます。その後、それぞれの子どもを母親と隔離してクルミを与えると、母親がクルミを食べるのを見て育った子どもたちは最初から最適な場所に穴をあけられるのに対し、クルミを与えられなかった母親の子どもたちは上手に穴をあけられませんでした。つまり、最適な場所に穴をあけた子ネズミは、母親の行動を見て学習していたのです。他者の行動をまねたり観察したりして、行動をすることを「社会的学習」と言います。

若い時期ほど社会的学習の効果が大きい

社会的学習による行動は、若い時ほどよく身につくことが、森にすむニホンリスの実験でわかっています。オニグルミを上手に食べるリスの様子を、オニグルミをまったく知らないいろいろな年齢のリスに50日間見せたところ、若いリスほど上手にオニグルミを食べられるようになりました。
もしオニグルミが伐採されてしまったら、学習によって維持されているアカネズミやニホンリス独自の行動パターンもそこからなくなってしまいます。そういう意味でも自然保護は大切なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 林 文男 先生

東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 林 文男 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

動物行動学、動物生態学、保全生物学

メッセージ

動物の形態や行動は多様で、研究されていないことも多いため、何か興味を持って調べ始めると、芋づる式にいろいろな発見があります。それまで説明がつかなかったことが、新たな発見によって説明できるようになると、大きな達成感が得られます。また、動物を深く知ることは、その先にいる人間についての理解を深めることにもつながります。ですから、ぜひ、野生動物に関心を持ち、その習性や形態、行動などに疑問を持って観察してみてください。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。