医療と創薬に力を発揮する「人工染色体」の可能性とは?
大きな遺伝子を運べる人工染色体の開発に成功
染色体は、生命の設計図です。その中にはたくさんの遺伝子が入っています。最近では、染色体を操作する研究が進み、人工染色体の作製が可能になりました。新しく開発された「人工染色体ベクター」は「運び屋」を意味する名前です。これまでのベクターは、イメージとしてはバイクのような、ほとんど荷物(遺伝子)を運べないものでした。しかし、人工染色体ベクターは、貨物列車やタンカーのように大きな荷物(遺伝子)を運ぶことが可能です。
修復した遺伝子を持つ細胞を体内へ戻す治療法も
人工染色体ベクターの大きな遺伝子を運べるというメリットを生かして、医療分野の研究が行われています。
例えば、筋肉の疾患である筋ジストロフィーという病気は、X染色体上のジストロフィン遺伝子(人間の中で、一番大きな遺伝子)が欠損することが原因です。その治療法として、患者さんのiPS細胞をつくって人工染色体に正常な遺伝子をのせて、遺伝子の修復された細胞を患者さんの体内へ戻すという方法が考え出されました。現在、実際の治療に使えるよう、さらに研究が進められています。
薬の安全性の確認と、「創薬」の可能性
そのほかにも、人工染色体を使ってヒトの巨大遺伝子をマウスの体内へ運び、ヒト化したモデル動物をつくることができます。ヒトと同様の薬物代謝酵素を持つマウスを使えば、薬が人間に及ぼす影響を調べることができるので、とても役に立ちます。また、現在では抗体医薬という薬が医薬品の売り上げの半分以上を占めています。抗体は私たちの体の中から異物を排除する働きを持っています。ヒト型の抗体は、通常ではマウスからはつくれませんが、人工染色体を使うと、ヒト型の抗体をマウスの体内でつくることができます。こうしたマウスの体内でできたヒト型の抗体を、人間の体内に入れても拒絶反応は起こりません。つまり、マウスの体内でつくった抗体が、ヒトの治療薬となるのです。
このように人工染色体は、医療や創薬の分野で、大きな可能性を秘めたものなのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 医学部 生命科学科 教授 香月 康宏 先生
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