失った視覚は取り戻せる! ~再生医療の最前線に迫る~
失明からの視覚の再生
目で最初に情報をキャッチする視細胞が障害を受ける前に、その進行を止める投薬の研究が盛んに行われてきました。さらに現在、失明後に視覚を取り戻す方法として、機械の目の「人工網膜」と「オプトジェネティクスを応用した遺伝子治療」が実用化へ向けて研究されています。オプトジェネティクスとは、光学と遺伝学を融合した研究分野です。
日本、アメリカ、EUで特許を取得した技術
人の目にある網膜は神経細胞の層で形成されています。その神経細胞の中で最初に光を受容するのが視細胞です。これは一旦変性してしまうと回復させることができない細胞で、失明につながります。そこで登場するのが「ボルボックス」という緑藻類です。ボルボックスは視細胞と同じく、光を受容する能力を持っています。この生物の特定の遺伝子を目の神経節細胞に注入し、視細胞としての能力を肩代わりさせることで視覚を蘇らせることができます。
すでにサルやネズミを使った臨床実験をクリアしていて、安全性、機能の回復なども実証済みです。日本、アメリカ、EUでの特許も取得済みです。現在はライセンスアウト(特許権やノウハウの使用を外部に許諾)し、実用化に向けた本格的な開発が進んでいます。緑藻類の遺伝子を使うというこの新規な再生医療は、視覚を失ってしまった人たちの大きな希望になるはずです。
課題は感度と色彩の再現
遺伝子の注入は局所麻酔をし、眼球への注射で行います。2カ月ほどでタンパク質が生成され、視覚を取り戻すことができる見込みです。しかし、一方で課題も残っています。この遺伝子治療で視覚は再生しますが、グレースケールのような濃淡で判別できるような見え方になると考えられることに加え、感度が低いため暗い場所での物の識別が困難になる可能性があります。これは色彩の感知を視細胞が行っているためで、次の課題は色彩の感知と感度の幅を増やすことです。このように視覚の再生研究は、iPS細胞から視細胞をつくる研究を含めて一層の進歩が期待されています。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科(令和7年度から 農学部 生命科学科 分子生命医科学コース所属) 准教授 菅野 江里子 先生
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