細胞にたまる有害物質を無害化する酵素の発見

細胞にたまる有害物質を無害化する酵素の発見

エネルギー産生の副産物として

人間を含む生物が生きるために必要なエネルギーは、細胞の中にある細胞小器官の一つ「ミトコンドリア」が、ブドウ糖を代謝、つまり分解や合成の化学反応で物質を変化させることで生み出しています。しかし、この代謝の過程で、副産物として、わずかですが「ジカルボニル化合物」という有害な物質が作られています。これが蓄積すると、ミトコンドリアのエネルギー産生機能が落ちます。ブドウ糖代謝によって細胞が受けるダメージを「糖化ストレス」と言います。ミトコンドリアが糖化ストレスで活動エネルギーを生み出せなくなり、細胞の機能が低下してしまうことが、加齢黄斑変性などの網膜疾患や、認知症などの神経疾患、糖尿病、肌の老化などの一因になっています。

細胞内の有害物質を無害化する酵素

2023年、この有害なジカルボニル化合物を別の物質に変えて無害化する、「ES1」と呼ばれる酵素タンパク質が細胞内に存在するという研究結果が発表されました。この発見は、バクテリアからヒントを得て行われた研究の結果です。ES1と似たタンパク質がバクテリアにあり、それがジカルボニル化合物の一種であるグリオキサールという物質を無害化することが知られています。そこで、人間の遺伝子データから同じようなタンパク質(ES1)の情報を見つけ出してマウスによる実験を行ったところ、バクテリアと同じようにグリオキサールを無害化する結果が得られました。ブドウ糖の代謝で発生する有害物質を無害化する酵素が、人間の細胞内にもともと備わっていたということです。

無害化する酵素の機能を高める薬を

現在、この研究結果に基づいて、病気の治療薬研究が行われています。ES1と結合して、ジカルボニル化合物を無害化する機能をより高められるような物質の探索が進んでいます。これが成功すれば、加齢黄斑変性症という網膜の病気や、認知症の一種である多系統萎縮症、レビー小体型認知症を改善できると期待されています。

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岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科 生命コース(令和7年度から 農学部 生命科学科 分子生命医科学コース所属) 准教授 尾﨑 拓 先生

岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科 生命コース(令和7年度から 農学部 生命科学科 分子生命医科学コース所属) 准教授 尾﨑 拓 先生

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