不思議だらけの人間の触覚
手で感じる? 脳で感じる?
「手でものを触る」という、何気ない日常の行動には多くの不思議があります。例えば、車の板金修理の現場では、タバコの包装フィルムの中に指を3本ほど入れて凹凸を探します。指で直接触れると不要なざらざら感が伝わるのですが、フィルムを通して触ると、ざらざら感が取り除かれて微妙な歪みだけがわかるからのです。身の回りのものを使用した一つの不思議です。また、“ベルベットハンドイリュージョン”と呼ばれる現象があります。金網を両方の手のひらではさみ、両手ごと動かすと、表現しようのないやわらかい感覚を得ることができます。手への刺激に対し、脳がベルベットのような感触をつくりだすという、物理だけでは解明が難しい、脳科学の分野にも入り込んだ不思議です。
指の感覚が増幅 ~触覚コンタクトレンズ~
目や耳には、めがねやコンタクトレンズ、補聴器など、視覚や聴覚の機能を高めるものが存在します。触覚にも、指の機能を高める装置が存在します。“触覚コンタクトレンズ”と呼ばれるものです。これは、厚さ0.3mmのシートの上に、直径1mm、高さ3.2~4mmの突起物を一定の間隔で並べたものです。突起がある側を指で押さえて物体の表面をなでると、表面にある微小な凹凸を素早く敏感に感じ取ることができます。普段、指先ではわからない小さな隆起も、虫に刺された時にできるでっぱりのように感知できるのです。テコの原理や、指の皮膚表面や内部にかかる「引っ張り力」の特性を解明することで、触覚の能力を数倍に増幅することを可能にしたのです。
触覚コンタクトレンズ開発のヒントは軍手のメリヤス編み構造にありました。自動車メーカーでは、熟練工が手で触れてボディの歪みの最終検査を行います。安全面や手が汚れないために軍手をはめると思われがちですが、軍手をはめている方が、小さな凹凸をとらえやすいというのです。経験的に生み出された方法の原理の究明が、画期的な発明につながったのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。