平安から室町時代の「歌謡」に息づく、豊かな情感の世界
まるで平安時代のJ-POP!
大衆が広く親しむ流行歌といえば、歌謡曲やJ-POPを思い浮かべるでしょう。そんな歌謡曲が、平安時代にもあったのです。こうした歌謡は、古くからの宮廷音楽である神楽歌(かぐらうた)や催馬楽(さいばら)などに対して、最新の流行歌という意味で「今様(いまよう)」と呼ばれました。歌詞は「7音・5音」を4回繰り返すものが典型的な形式で、メロディーは今となっては不明ですが、長く伸ばし、装飾音に特徴のあるものだったようで、鼓や扇で拍子をとりました。
プロデューサーは後白河院
当時としては斬新だった今様は、都市の芸能として、京都で大流行しました。今様の歌詞は男女の情愛や都の風俗をテーマにするなど、当時の人々をリアルに描いています。時の後白河院は今様に魅了され、高貴な身分にもかかわらず習得と鍛錬に努めて今様のプロデューサー的な立場にまでなり、その集大成として歌謡集『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』を編さんしました。この中で最も有名なのが、「遊びをせんとや生まれけむ」で始まる歌でしょう。老境に入った人が遊ぶ子どもの声にいとおしさを感じていると解するのが通説ですが、罪深き我が身を嘆く遊女の歌と見る説もあります。
歌詞をたどって当時の人々と対話する
室町時代になると、『閑吟集(かんぎんしゅう)』「隆達(りゅうたつ)節歌謡」などに代表される室町小歌が流行しました。今様よりも短いフレーズによるストレートな感情表現が室町小歌の特徴で、「離るる るるるるるるが」「えいとろえいと えいとろえとな」といった、軽やかな音で遊ぶ例も見られます。
室町小歌は後の民謡や江戸小唄のルーツとなったと言われますが、今様と同じく大衆歌謡であったため、その場限りで消えた歌詞も少なくないでしょう。しかし今も残るわずかな歌の意味をたどれば、当時を生きた人々と対話ができます。古典の中でも、うたかたのような歌謡の歌詞にこそ、現代にも通じる人間模様が隠されているのです。
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同志社大学 文学部 国文学科 教授 植木 朝子 先生
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