光源氏には罪の意識がなかった? 『源氏物語』の倫理観を探る
『源氏物語』における罪の意識
『源氏物語』の登場人物は、現代の人々とは考え方や倫理観が大きく異なっています。主人公の光源氏は、自分の父親の妃、つまり義理の母親にあたる藤壺と密通して子どもまで作りますが、光源氏は己の行いに罪悪感を抱いているようには見えません。平安時代にも罪の意識という感覚自体はあったはずですが、なぜ彼の罪の意識は描かれていないのでしょうか。
作品解釈のための三つの視点
中古文学の解釈のためには、三つの観点を意識します。一つ目は、平安時代の人々の一般的な意識です。罪の意識という点でいえば、現代よりも密通に対しておおらかであったと考えられるため、そのことを踏まえる必要があります。二つ目は、作者がどのような価値観に基づいて人物を描こうとしたのか。光源氏はあくまで、『源氏物語』の作者・紫式部が生み出した想像上のキャラクターですから、当時の一般的な感覚とは別に、この架空の人物がどのような価値観をもつ人として描かれていたのかを考えます。三つ目は、作者が意図的に描かなかった部分があるのではないかという観点です。光源氏は罪悪感をもっていないように見えますが、それは罪の意識に関する部分を作者があえて描写していないからかもしれません。このように、当時の人々の価値観、登場人物の価値観や心情、作者の意図という三つの視点を総合的に考えていきます。
用例収集と歴史資料の参照
作品解釈の基本は、物語の言葉と向き合うことです。中古文学には、まだ意味がはっきりわかっていない言葉が多くあります。そうした言葉がどんな場面で使われているかの用例を収集し、意味を考えていきます。また、平安時代の日記や記録も、解釈のための重要な資料です。
このようにして作品を読み解いていきます。さらに、『源氏物語』以外の作品で罪がどのように意識されているのか、また仏教や儒教、神道の思想が『源氏物語』にどのように現れているのかなど、さらに視点を広げて中古文学を解釈していくのです。
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フェリス女学院大学 グローバル教養学部 文化表現学科 日本・アジア専攻 ※2025年4月開設 准教授 井内 健太 先生
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