ゲノム解析で、「見えない遺伝子」の謎を解明する
「ガラクタ」の領域にも有用な遺伝子があった?
DNAに含まれる全遺伝情報が「ゲノム」であり、ゲノムを解析することで、さまざまな動植物の「生物としての情報」を担う遺伝子を知ることができます。ただ、DNAのすべてに遺伝情報が「記述」されているわけではなく、その生物の形質形成に関わりがないと思われる領域は、これまで「ジャンク(ガラクタ)DNA」と呼ばれていました。ところが近年の研究で、ジャンクDNAにも、これまで知られていなかった多彩な役割があることがわかってきました。
世界中でゲノム研究に利用されるシロイヌナズナ
植物のDNA解析を行う際、モデル生物としてよく用いられるのが「シロイヌナズナ」という草花です。ゲノムサイズが非常に小さいこと、1世代が2カ月ほどで完結するため短期間で観察できること、室内でも多数の株を栽培できることなどから、世界各地で研究に利用されています。例えばこれに、標的遺伝子を破壊したり挿入したりといった最新のゲノム編集技術を用いて、特定機能を欠損させた遺伝子を組み込んだり、遺伝子の一部を操作したりします。すると、平べったい形状の葉がキャベツのような形になったり、異様に広がって白菜のような形になったりと、生育中にいろいろな変化が起きることがわかっています。
「見えない遺伝子」が私たちの生活を変えるかも
シロイヌナズナの「ジャンク」と見られていたゲノム領域の中からは、病原菌や塩分、乾燥などへの耐性機能を発現する遺伝子も発見されています。今後、詳しい働きが知られていない遺伝子の研究が進み、それらを人為的に生産できるようになれば、植物への利用はもちろん、抗菌剤や抗がん剤など、医薬品への応用も考えられます。見たことのないような、新種の農産品を生み出すこともできるかもしれません。
働きが知られていない遺伝子は、「見えない遺伝子」と呼ばれることもあります。その中から有用な遺伝子を探し出すゲノム解析が、私たちの生活を大きく変化させるかもしれないのです。
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九州工業大学 情報工学部 生命化学情報工学科 教授 花田 耕介 先生
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