皮膚からの吸収でも発症するシックハウス症候群
化学物質が引き起こすシックハウス症候群
住宅の建材・家具などに含まれる化学物質により、体調を崩してしまう「シックハウス症候群」は、1990年代から問題視されるようになりました。現在も多くの患者さんが苦しんでおり、さらなる研究が求められています。
シックハウス症候群の原因物質は、主に鼻や口から体内に吸収されますが、皮膚からも体内に入って症状を引き起こします。例えば、原因物質の1つであるフタル酸エステルは、プラスチックの可塑剤(柔らかくするための添加剤)として使われる物質ですが、食器への使用が規制されています。これは口から入らないようにするための規制であり、皮膚から入ることについては、あまり想定されていません。
代謝活性が高いがために吸収される
人間の皮膚の表面には、角質層という部分があります。角質層には外界に対するバリアの役割があり、有害物質を体内に取り込まないようにするとともに、皮膚に付着した物質を、代謝(物質の合成や分解)によって無毒化する機能も備えています。
フタル酸エステルは、油に溶けやすい性質のため、本来なら水分の多い体内には入りにくいのですが、皮膚内で代謝されると水に溶けやすく変化して、入りやすくなってしまいます。このように代謝機能が物質を取り込みやすい状態を作ることもあるわけです。特に皮膚の代謝活性が高い人は、こうした物質を吸収しやすいと考えられます。皮膚の代謝機能を調べることで、皮膚からの吸収が起こりやすいかどうかがわかり、シックハウス症候群の予防や対策を講じることができます。
新しいタイプの薬剤開発に
こうした研究が進めば、シックハウス症候群の予防以外にも、代謝されることによって薬理作用が生じる物質「プロドラッグ」や、代謝によって薬理作用がなくなる物質「アンテドラッグ」の開発にも応用できます。例えば、副作用の強いステロイド薬を「アンテドラッグ」にすると、皮膚の表面でだけ治療効果が出て、体内に吸収されると作用が薄まるため、副作用を抑えることが可能になります。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
城西大学 薬学部 薬学科 教授 畑中 朋美 先生
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