世界にたった1つの化合物~新薬を創る~
1000に3つの挑戦
新たな薬を創り出すのは、なかなか大変で、1000個のアイデアのうち実際に実用化まで、こぎつけるのは、たった3つだと言われています。例えば、ネガマイシンという抗生物質があります。この物質には、「遺伝子読み飛ばし作用」があります。どういうことかというと、私たちの1個1個の細胞の中には、DNAという遺伝情報があります。いわば設計図で、この情報をもとに、さまざまなたんぱく質が合成され、体の組織になります。遺伝情報は、1本の鎖の上にアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4つの塩基が正しく連なることで表現されます。例えば、「~GA//ATGCC……GAATAA/TG~」のように並んで、//と/の間が、1つのたんぱく質を表します。ATGが開始、TAAが終了の合図です。
病気のメカニズムを知り、アイデアがわく
たんぱく質が合成される場合、この遺伝情報からコピーされるのですが、塩基の並び方が変わってしまい、終了の合図TAAがたんぱく質の遺伝情報の「途中」に入ってしまうことがあります。すると、正しくコピーされず、たんぱく質は合成されません。難病である筋ジストロフィーのうち約2割が、この終了の合図が動いてしまうことにより起こります。そこで、ネガマイシンで薬が創れないかというアイデアが出ました。情報をコピーするときに、途中の終了合図を読み飛ばす作用があるからです。
世界にたった1つの化合物
ネガマイシンの構造を少しずつ変えながら、目標通りの効果を持つ化合物を創る実験が進んでいます。しかし、実験室で成功しても、さらに動物実験、そして人での臨床治験が必要です。私たちが飲んだ薬は、腸から吸収され、病気の細胞に運ばれます。化合物が途中で分解されて細胞まで届かなければ、話になりませんし、ほかの部分に悪い影響(副作用)を及ぼすようなら、本当の薬にはなりません。
このように、いくつもの関門をくぐって創り出される、世界にたった1つの、人の役に立つ化合物が、「薬」なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京薬科大学 薬学部 医療衛生薬学科 教授 林 良雄 先生
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