「削らない治療」から「取り戻す歯科医療」まで―広がる歯学研究
削って・詰める虫歯治療はもう古い
あなたは歯学というと、「削って・詰めて」という虫歯治療のイメージを思い浮かべませんか? 実は、最新の歯学研究の世界はそこからもっと進んでいます。
初期の虫歯を見つけ出し自分で治す仕組みの解明や、大きな虫歯になっても歯や神経を守る材料の開発、さらに歯髄から骨や神経をつくる再生医療など、人が一生健康に生きていくための研究が活発なのです。
初期虫歯が自分で元に戻る仕組み
例えば、その一つとして、レーザーを当てて虫歯の進行具合を判別し、穴になる前の状態「初期虫歯」を見つけることができるようになりました。その初期虫歯にカルシウムやリンなどのミネラル成分を取り込むと、歯は自ら元に戻るという仕組みがわかっており、「削らない虫歯治療」研究の一つとして注目されています。日本で開発されたPOs-Ca(ポスカ)という水溶浸透性カルシウムは、歯に取り込まれるだけでなく初期虫歯を再結晶化する効果が高いことが実証され、これを含んだ初期虫歯対策ガムも商品化されています。
歯髄内の幹細胞に注目した再生医療への可能性
一方、虫歯がとても進んだ場合、従来の治療では歯髄と呼ばれる神経組織を取ることになり、結果的に歯を弱めてしまっていました。そもそも歯髄には、象牙質を削った時に含まれる酵素が刺激になり、組織内の幹細胞が活発化して歯を分厚くする働きがあります。この働きを引き出すタンパク質を見つけて虫歯の薬にすることができれば、神経を守り、歯の寿命も長くすることができると期待されています。
また、歯髄に含まれる幹細胞には、骨や神経などのいろいろな組織になる「分化能」があるので、「取り戻す歯科医療」への展開も注目されています。自分の将来の病気やけがの備えとして、乳歯や親知らずの中の歯髄細胞を保管しておく歯髄細胞バンクなど、歯のみならず身体全体を対象にした再生医療にどう役立てることができるかについても、将来の可能性が広がっているのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 歯学部 歯科保存学講座 教授 林 美加子 先生
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