心臓からエネルギー産生の仕組みを探る~ATP研究最前線
心臓は、1日に体重と同量のATPを産生・消費
心臓は寝ている間もずっと動いており、最もエネルギーを使う臓器です。心臓細胞は心臓を動かすために、1日に体重と同じくらいのエネルギー源、ATP(アデノシン三リン酸)を産生、消費しています。このエネルギーのほとんどは、細胞中にあるミトコンドリアで作られており、その働きやATP産生に関する研究には、心臓を対象にすると、とてもよい感度でその状態がわかるので、研究も活発に行われています。では、ATPはミトコンドリア内でどのように合成されるのでしょうか。
作る仕組みは、水力発電と同じ
ミトコンドリアでは、電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPが産生されています。細胞の内膜の内側と外側の水素イオンの濃度の差を生じさせ、電子の流れをつくるのですが、そこに水素イオンだけを通すチャンネルがあり、タービンのような構造を持った酵素があります(ATP合成酵素ナノモーター)。電子の流れの力を使って、このタービンを回すことで、ミトコンドリアの内膜でATPができるのです。ダムで水位差を使ってタービンを回し発電する仕組みと同じです。これらのプロセスには、100以上のタンパク質が関与して、とても堅牢な構造になっており、ATPの不足を関知した時には電子伝達を素早く稼働させるように働きます。
治療や創薬にも生かされる
最近の研究では、このタービンを「低い水位」でもちゃんと回すことができる潤滑油のような働きをするタンパク質も発見されました。この研究成果によって、狭心症や心筋梗塞など低酸素状態によって働きにくくなった心臓細胞のATP産生を上げ、心臓が動くようにする薬剤の開発につながるのではないかと期待されています。
また、臓器移植や心不全の治療、脳の損傷などを受けた重症患者の治療に使われる低体温療法など、ATPの消費を抑えたり調整したりすることが必要な治療にも、ATP代謝に関するこれらの研究は生かされています。
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