船舶工学を支え、進化し続けるコンピュータシミュレーション解析

船舶工学を支え、進化し続けるコンピュータシミュレーション解析

時代のニーズに応えて進化する造船技術

海は太古の時代から人類が活用してきた豊かな地球資源の宝庫ですが、まだ解明されていない謎がたくさんあります。広大な海洋を探究し、海上活動や資源輸送を行うためには、船舶などの海上交通が欠かせません。優れた船舶を造るための「造船学」は船舶工学とも言われ、古くから確立された学問です。近年は省エネや環境への配慮、安全性の追求といった地球規模のニーズに応えるために、より高度な造船技術の開発が求められています。

溶接の精度向上に不可欠な数値シミュレーション

鋼鉄製の大型船舶は全長数百mにも及ぶものがあるため、一品生産の構造物として建造されます。曲線で構成される船体を精緻に成型するためには、鋼材を接合する溶接技術が重要です。しかし溶接は局部的に金属を加熱するので、どうしても溶接によるひずみが生じます。また、残留応力という、加工時に加えた力に対して物体内に生じる力(応力)が加工後に残る場合があり、それもひずみの原因となります。
それらがどう起こるかを事前に予測するコンピュータシミュレーションを効率的に行うには、FEM(有限要素法)という数値解析手法を使った熱弾塑性解析、つまり溶接時の熱伝導性解析に基づく応力解析が有効です。

他分野にも応用できる船舶工学の知見

造船における溶接部分はトータルで数十kmの長さにも及び、溶接の乱れは即、船舶の性能に影響します。FEM熱弾塑性解析は複雑な形状をもつ物体を分割して近似化し、全体の変化から予測するため、従来の解析法ではとらえにくいピンポイントでの応力状態を把握できます。
FEMには数十年の歴史がありますが、さらに精度の高い「理想化陽解法FEM」の研究が進んでいます。これは船舶溶接のみならず、橋、発電所などの巨大構造物から自動車まで、幅広い分野におけるシミュレーションの高精度化、高効率化が見込まれています。船舶工学は、ほかのフィールドにも応用できる汎用性の高い知見の集積なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 准教授 柴原 正和 先生

大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 准教授 柴原 正和 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

船舶工学、造船学、溶接学、計測工学

メッセージ

船舶工学は、船舶の設計から造船技術、海上での効率的な運航まで、非常に広い分野を含む学問です。特に、船舶を造る「造船学」には、四方を海に囲まれた日本の近代化を推進した歴史があります。材料力学、構造力学、流体力学などを基本骨子としますが、これらの学びは船舶以外の分野でも幅広く応用でき、小さなモノから巨大なモノまで「ものづくり」のベースとなります。
先進的なIT技術を応用すれば、船舶に限られない新しい知見を生む土壌もあります。歴史と未来が融合するこの分野を、一緒に学んでみませんか。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。