身近にあるのに、わからないことの多い「亜硝酸」
ありふれた物質・亜硝酸
亜硝酸は弱酸で、身近なところでは、亜硝酸塩が加工肉の発色剤に用いられ、強い食中毒菌であるボツリヌス菌を抑制する物質としても知られています。また、亜硝酸ガスは、車や工場からの排ガス、プラズマイオン空気清浄器などに含まれ、野菜の中にもあるため、それを食べる人間の呼気からも検出されます。このように、亜硝酸は私たちの日常にありふれた物質なのです。
凍らせると反応が促進
一般的には、亜硝酸は不安定で化学反応を起こしやすく、加熱するとすぐ硝酸に酸化されてしまう物質と考えられています。しかし、実際に実験してみると、亜硝酸は容易に酸化されるわけではありません。ただし、亜硝酸の水溶液を凍らせると、化学反応が促進されて硝酸になることが最近わかってきました。
通常、食品を長期間保存するためには冷凍しますが、それは凍らせると微生物の活動が低下するとともに化学反応という劣化が起こりにくいからです。しかし、亜硝酸は冷凍した方が分解しやすいということは、亜硝酸を含ませた加工肉の場合、冷凍が本当に適切な保存方法なのか、という課題が出てきます。このように、一般的に考えられていることと、実際に実験してみてわかることには違いが出ることもあるのです。
不明な点の多い亜硝酸
札幌や南極の雪氷からの亜硝酸ガスが報告されていますが、その生成機構はまだわかっていません。このように亜硝酸が自然界の中で、どのように生成されているのかは解明されておらず、大気中の亜硝酸ガスがどのように消失していくかも明確にはわかっていません。そして、亜硝酸が人体に及ぼす影響もはっきりわかっていないのです。ただ、かつては自然界にある亜硝酸を選択的に測定することが難しかったのが、近年、測定法が確立してきたことで、そのメカニズムが少しずつ解明されようとしています。そんな中、動物実験の結果、亜硝酸がぜんそく発作を引き起こす原因物質である可能性が出てきました。継続調査中ですが、もしそうなら早急な対策が必要となってくるでしょう。
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大阪公立大学 現代システム科学域 環境社会システム学類 教授 竹中 規訓 先生
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