食品のおいしさを保つ、環境負荷や効率も考慮した冷凍技術
食品冷凍は産業界の重要テーマ
冷凍食品はスーパーなどに並ぶ市販品だけでなく、食品製造工場でも使用されており、食品冷凍技術は、食品産業界における重要なテーマとなっています。食品冷凍学の目的は、環境負荷や効率を考慮しつつ、食品のおいしさをできるだけ保てる方法を見いだし、実用化の手がかりとすることにあります。そのために、食品の冷却装置からおいしさの官能評価(人間の感覚での評価)まで、幅広い研究が行われています。
鮮度の高いうちに冷凍した方がおいしい?
冷凍には「前処理」「凍結」「保存」「解凍」のプロセスがあります。近年では、その中で「前処理」と「解凍」について重要性が認識され、研究が進められています。
前処理に関する具体的な研究例があります。食品の凍結では、内部に生成する「氷結晶」が小さい方が、細胞組織へのダメージが少なくおいしさが保たれると言われており、そのためには急速に凍結させることが必須と考えられています。しかし魚の場合、鮮度が高いうちに凍結させるとそれだけで氷結晶が小さくなる可能性があります。そこで鮮度の異なるアジを同じ条件で凍結させ、アジの内部にできた氷結晶の大きさの違いを調べる実験を行ったところ、鮮度が高いうちに凍結すると氷結晶は明らかに小さくなることが科学的に立証されました。次の段階としては、なぜ鮮度が高いと氷結晶が小さくなるのか、魚の細胞組織の死後変化に着目した更なる研究が必要です。
「ライフサイクルアセスメント」で評価
食品冷凍の研究においては、環境負荷や効率などの観点も必要です。例えば、ライフサイクルアセスメントという手法を用いて、魚の養殖から、凍結、保存、運搬、小売店での販売に至るまでのCO₂排出量を算出します。その結果は、例えば刺身用の魚を遠方に運ぶ際に、生のまま飛行機で運ぶか、冷凍して船で運ぶかを決める判断材料となります。
食品冷凍学には、ほかにも化学、生物学から機械工学、心理学に近いところまで、いろいろな分野のテーマがあり、さまざまな機関で研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 教授 渡辺 学 先生
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