講義No.11180 法学

約束を破ってもよいのはどんなとき? 世界の「契約解除」の歴史

約束を破ってもよいのはどんなとき? 世界の「契約解除」の歴史

どんな場合に契約の解除が認められる?

売買契約を交わして代金を支払ったのに、相手が商品を渡してくれない。あるいは商品を渡したのに代金が支払われない。このような場合、多くの国の民法では契約を解除することが認められていますが、その理由や方法は時代や国によってさまざまです。例えばドイツでは、相手に契約履行の意思があるのかを確認し、それでも履行がなければ契約を解除することができます。日本はこれに倣っています。一方、イギリスでは契約を破る自由が認められており、フランスでは裁判所に申し立てねばならない時代が長くありました。

法律ができた背景

「契約の解除」というシンプルな行為に、これだけの違いが生じる要因はさまざまですが、その規定ができた時代を調べることで、見えてくることもあります。ドイツで民法制定の流れができた19世紀中期は、商業資本主義が広がった時代であり、商品(モノ)の流通が盛んになりました。ですから「相手に取引の意思がないのであれば違う人と取引したい」と考える人が多かったと予想されます。一方、フランスで民法ができた18世紀末から19世紀初頭は、モノよりも土地の売買がメインでした。土地は気軽に新しい取引相手を見つけることは難しいものですし、そもそも契約は守られるべきものですので、裁判所への申立てを要するという慎重な規定ができたと考えることもできます。

現在を相対化する

日本人からすると、フランスやイギリスの契約解除の規定には違和感を覚えるでしょう。しかし、それぞれの法律ができるまでには相応の背景があります。民法研究では、そこに隠されている歴史や、当時の考え方といった要素を明らかにするために、その時代に書かれた判例や記録などの文献を調査します。そして、当時の人々の呼吸を感じられるほどに調査を重ねることで、不合理に思える法律に、合理性を見出すこともできます。このように、歴史を知ることで現代を客観的にとらえ、より広い視野を社会に提示することも、民法研究の大切な意義なのです。

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先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 法学部 法学科 教授 杉本 好央 先生

大阪公立大学 法学部 法学科 教授 杉本 好央 先生

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先生が目指すSDGs

メッセージ

私が専門とする民法は、人と人との関係性を、権利や義務といった観点から考えていく学問です。例えば友人関係を考えた時、あなたに言い分があるように、友人にも言い分があるはずで、これを認めない限り、まともな関係性は成立しません。
民法の歴史研究においても同様で、今の自分たちの考えだけを基準にせず、当時の人たちがどういう考えを持っていたのかを調べることによって、その国、時代の民法の成り立ちや、人間関係のあり方が見えてくるのです。興味があれば、一緒に学びましょう。

先生への質問

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大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。