約束を破ってもよいのはどんなとき? 世界の「契約解除」の歴史
どんな場合に契約の解除が認められる?
売買契約を交わして代金を支払ったのに、相手が商品を渡してくれない。あるいは商品を渡したのに代金が支払われない。このような場合、多くの国の民法では契約を解除することが認められていますが、その理由や方法は時代や国によってさまざまです。例えばドイツでは、相手に契約履行の意思があるのかを確認し、それでも履行がなければ契約を解除することができます。日本はこれに倣っています。一方、イギリスでは契約を破る自由が認められており、フランスでは裁判所に申し立てねばならない時代が長くありました。
法律ができた背景
「契約の解除」というシンプルな行為に、これだけの違いが生じる要因はさまざまですが、その規定ができた時代を調べることで、見えてくることもあります。ドイツで民法制定の流れができた19世紀中期は、商業資本主義が広がった時代であり、商品(モノ)の流通が盛んになりました。ですから「相手に取引の意思がないのであれば違う人と取引したい」と考える人が多かったと予想されます。一方、フランスで民法ができた18世紀末から19世紀初頭は、モノよりも土地の売買がメインでした。土地は気軽に新しい取引相手を見つけることは難しいものですし、そもそも契約は守られるべきものですので、裁判所への申立てを要するという慎重な規定ができたと考えることもできます。
現在を相対化する
日本人からすると、フランスやイギリスの契約解除の規定には違和感を覚えるでしょう。しかし、それぞれの法律ができるまでには相応の背景があります。民法研究では、そこに隠されている歴史や、当時の考え方といった要素を明らかにするために、その時代に書かれた判例や記録などの文献を調査します。そして、当時の人々の呼吸を感じられるほどに調査を重ねることで、不合理に思える法律に、合理性を見出すこともできます。このように、歴史を知ることで現代を客観的にとらえ、より広い視野を社会に提示することも、民法研究の大切な意義なのです。
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大阪公立大学 法学部 法学科 教授 杉本 好央 先生
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