工学とバイオの融合が生み出す生命工学―抗体医薬品開発の現場から
生命工学:工学と生命科学の融合
工学は鉄と油、生命科学は水、二つは互いに混じり合わない関係にあるように見えます。確かに一昔前の工学が生き物にかかわる機会は限られており、生命科学の要望に応じて機械を提供する分担作業に留まっていました。しかし最近では、数学・物理・化学をベースとした工学技術の積極的な導入が、生命体の謎を解き明かすための切り札となっています。また工学においても、生命体の仕組みが工学のものづくりの良い手本となっています。生命科学を支える工学の役割はますます大きくなっているのです。そして、生命体の巧みに学び、その機能解明と産業への応用をめざす新しい工学体系「生命工学」が誕生しました。
抗体医薬品開発:目には見えないものづくり
抗体は、免疫の中心的役割を担っているタンパク質で、特定の異物に特異的に結合する能力を持っています。実は今、世界中の製薬企業が抗体を医薬品として利用する「抗体医薬品」の開発にしのぎを削っています。抗体医薬品は、がん細胞などの細胞表面の目印をピンポイントでねらい撃ちするため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できるからです。しかし抗体は、構造が複雑で大きな分子であるため、一般的な錠剤のように有機化学を用いて工場で合成することができません。
必要とされる生命工学の高い技術
細胞を利用して作られる抗体医薬品の確立には、より高い技術が必要です。特に抗体医薬品開発の初期段階には、遺伝子工学や細胞工学を利用したハイスループットスクリーニングが欠かせません。ハイスループットスクリーニングとは、ロボット化と小型化・少量化の組み合わせで多くの試料を短時間に処理するための方法です。単なる薬学と工学の分担作業ではこのハイスループットスクリーニングを組み上げることはできません。生命の特性を理解した上での工学技術の応用、つまり生命工学の知識が役に立つのです。
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先生情報 / 大学情報
富山大学 工学部 工学科 生命工学コース 教授 黒澤 信幸 先生
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