細胞を手術!? 合成生物学でオルガネラを操作し細胞を元気に
オルガネラの機能が細胞の元気さを左右する
ヒトの体は約60兆個の細胞でできています。この細胞たちがうまく機能することで、人間の健康が維持されています。細胞の中には、核やミトコンドリア、リソソームなど、独自の機能を持つ小器官がたくさんあって、これらを総称して「オルガネラ(細胞内小器官)」と呼びます。
例えば、核は遺伝子情報の維持、ミトコンドリアはエネルギー生成、リソソームは細胞内の物質分解と再利用など、オルガネラ同士がお互いに連携を取りながらそれぞれの機能を果たしています。何らかの原因でオルガネラの機能が低下すると、細胞の健康、ひいてはその人の健康が維持できなくなります。
細胞の手術~細胞の中身を改善するには
このオルガネラの機能を高めようとする研究が、「合成生物学」という分野で進められています。細胞外で人工的に合成したオルガネラや、ほかの細胞から取り出したオルガネラを、いわば「手術」により機能の低下した細胞内に入れる試みです。このときに難しいのが、細胞をなるべく傷つけずに注入する技術です。そのような中で、微細な注射針を使う「マイクロインジェクション」によって、オルガネラを細胞内へと導入することに成功したのです。これまでに、この方法を使って、細胞内で物質を運ぶカプセルである「輸送小胞」を細胞内に人工的に合成することができています。またそれにより、SNAREという種類のタンパク質が、細胞内での物質輸送の「宛先」情報として使われていることが突き止められました。
細胞治療の可能性
こうした研究はまだ基礎段階ですが、今後、発展していけば、病気の治療に役立つと考えられます。その可能性の一つが、不妊症の治療です。女性の卵子は生まれた時から体内にあり、年齢を重ねるにしたがって老化して妊娠しにくくなりますが、そうした卵子を「手術」して若返らせることができるかもしれないのです。また、オルガネラの機能を工学的に創った「ナノマシン」を細胞に入れることで、傷んだオルガネラの機能を補える可能性もあります。
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富山大学 工学部 工学科 生命工学コース 助教 小池 誠一 先生
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