メディアの力を考える:情動の世界

メディアの力を考える:情動の世界

情動とは何か

メディアは意味=メッセージを視聴者に伝達するだけではありません。現在のメディアにおいて問題となるのは、メディアのイメージが、それを見たり聞いたりする人々の身体に何らかの刺激を与え、意味として感知される手前で身体にある反応を引き起こさせるような事態です。脳科学的には、これは情動反応として捉えられています。情動反応とは、脳の思考をつかさどる部位ではなく、より生命維持や反射に関わる部位において感知され反応する現象です。現在のメディアは意味=メッセージによる説得だけではなく、この情動のレベルで視聴者の身体に直接影響を与えているのです。

情動はメディアを通じて転移する

例えば、スポーツ中継において、試合会場で生み出される興奮(=情動)は、テレビ画面を通じて視聴者に作用し、スクリーンの前の視聴者を同様の興奮に導きます。また、Twitterでつぶやかれた誰かの怒りは、RTやいいねをする、コメントの書き込みなどを通じて、時には世界中に拡散されていき、怒りの連鎖を生み出します。このように、スクリーンの向こう側で生み出された情動はメディアを通じて転移(伝染)し、多くの人々の間で情動/感情が共有されるという状況が生じているのです。例えばメディアでのスポーツ観戦を通じたナショナリズムの形成や、特定の人物・出来事に対する炎上(キャンセル・カルチャー)などは、こうした情動の拡散・共有が深く関係していると考えられています。

情動論的メディア論-今後の展開

情動論的メディア論は今後、(1)メディアに流れる記事や映像がどのように読者・視聴者の情動を触発するように制作されているかを分析すること、(2)SNSを通じて情動が共有されるときどのような集団が形成されるかを分析すること、(3)インターネット上の様々なプラットフォーム(ネットニュースサイトなど)がどのように人々の情動を触発し、取り込む構造を構築しているかを分析すること、に向かうのではないかと予測されています。

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国際基督教大学(ICU) 教養学部 アーツ・サイエンス学科 准教授 有元 健 先生

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カルチュラル・スタディーズ

先生が目指すSDGs

メッセージ

あなたは社会や大人が「当たり前」として提示する価値観に対して、心のどこかで違和感を覚えたことはありませんか。大学の勉強やカルチュラル・スタディーズでは、あなたの中にある違和感をひもとき、理解していきます。違和感の原因は何か、それはどのような仕組みのうえに成り立っているのか、どう変えていけば社会がより良くなるのかなどを学びます。
好きな音楽、ゲーム、スポーツなども、批判的に見ることで背景にある社会の姿が浮かび上がってきます。頭を柔らかくして学び、さまざまな気づきを得てほしいです。

先生への質問

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ICUは教養学部1学部の中に31のメジャー(専修分野)を設けています。学生は入学時に専攻を定める必要がなく、入学後に様々な科目を履修し、自分の関心を見極め、2年次の終わりまでにメジャーを決定します。メジャーには、文学、物理学、心理学などの伝統的な学問分野と、「平和研究」「アメリカ研究」などの問題解決型や地域研究型があります。どの分野も、他大学の学部に相当する科目群を配し、専門を系統的に学ぶことができます。