立派なオスの牙だけが特徴ではない! クワガタムシの多様な世界
多様性に満ちたクワガタの世界
クワガタムシ(以下、クワガタ)というと、多くの人が特徴的なオスの牙(きば)を思い浮かべると思います。しかし、クワガタには多種多様な形態があります。牙の形もさまざまで、牙のないクワガタもいます。大きさも多様で、ごく小さなクワガタもいます。では、クワガタを識別する特徴は何かといえば、触角(ひげ)が「肘」のように曲がっていることと、腹板(お腹の板)が5つあることです。一見、クワガタとはとても思えない種にもこの特徴は共通しています。さらに、形態だけでなく、生態や繁殖行動も多様です。
さまざまなグループが独自に進化
オスの牙の形態に多様性をもたらしているのは、さまざまなケンカの方法です。逆に言えば、ケンカの方法が似ていれば、異なったグループでも牙の形が似てきます。ケンカの目的は繁殖やエサ場の獲得です。チビクワガタは、夫婦が一緒に子どもを育てます。チビクワガタの祖先のオスには牙が発達していましたが、一夫一妻でケンカの必要がないため退化してしまいました。クワガタは、このように環境に適応して形態や生態、繁殖行動を変化させることで、それぞれのグループが独自に進化していったのです。
またその際、近縁種同士の生息地が近い場合は、交雑を避けるために、オス・メスの生殖器の形を極端に変えます。その結果、それぞれの種が生き残り、1500種ものクワガタが生まれました。
進化の歴史を人間が台無しにすることは許されない
このようなクワガタの進化は、生物多様性の進化を凝縮したものです。しかも、これほど多様な種が発生する確率は、偶然に近いほどの低い確率です。その意味で、人間の勝手な振る舞いで、この奇跡とも言える進化の歴史を台無しにすることは許されません。
ペットショップなどでも売られている海外のクワガタが逃げ出すと、日本のクワガタが競争に負けたり、病気や寄生虫を移されたり、交雑が生じたりして、日本のクワガタが絶滅するばかりか、日本の生態系そのものが破壊されてしまう恐れもあるのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
九州大学 共創学部 共創学科 教授 荒谷 邦雄 先生
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