人間が設計しなくてもかしこいロボットができる秘密
進化するのは生物だけじゃない
コンピュータの中に人工世界をつくり、それを実際に動かすことで生まれてくる「生命らしさ」を観察して、普遍的な現象や概念を探る「人工生命」という研究分野があります。そこでは、「生命らしさ」とは、いろいろな要素が相互に影響したり、そこで生まれた変化が蓄積されたりすることで、全体として新しい特徴や構造が生まれてくる「創発現象」を指します。この現象は生物に限ったことではなく、コンピュータの人工世界にも見出すことができます。
お掃除ロボットの進化を見てみよう
創発現象の一つは、「進化」です。適応進化が起きる条件は3つ、「変異(集団の各個体に違いがあること)」「適応度の差(子どもを残せる数に差があること)」「遺伝(差をもたらす要因が一部でも子どもに受け継がれること)」です。
お掃除ロボットを題材に、進化シミュレーションを行いました。ロボット集団の各個体に、部品となるブロックの組合せとセンサを感知したときの動作の情報を遺伝子として持たせます。そして部屋を掃除させ、きれいにできた面積に比例した数の子どもを残せるようにプログラムしました。すると、200世代のころには同じ場所をグルグル回っていたロボットが、700世代になると周囲を掃除するようになり、1600世代には壁を避けながら部屋全体を掃除できるまでに進化したのです。
「進化の仕組み」で新たなものを生み出す
コンピュータの中に、環境に合わせてよりよい選択をしたものが生き残る「進化の仕組み」をつくることで、人間がすみずみまで設計しなくても、かしこいお掃除ロボットが生まれました。さらに人が思いつかないようなものが生まれる可能性もあるでしょう。この手法は「遺伝的アルゴリズム」と言います。従来のものづくりは人がほしいものを設計していましたが、「進化の仕組み」を使ってほしいものが生まれる環境を設計できるのです。コンピュータを単に計算機として使うのではなく、新たなものを創造するための道具として使う時代に入っています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 情報学部 自然情報学科 准教授 鈴木 麗璽 先生
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