藍染めを化学する―染色にも作用する「発酵」の技術

自然の発酵を利用したインディゴ染め
ジーンズをはじめとした、デニム素材の洋服によくある青色はインディゴ・ブルーと呼ばれますが、実は日本の伝統工芸技術である「藍染め」と同じものです。除虫など具体的な効果もあって、藍染めは名前を変えて世界の多くの国で行われています。藍染めは材料となる藍の発酵を利用して染め上げるもので、そこには酵素や微生物などが大きく関与しています。通常、「発酵」というと食品のイメージかもしれませんが、染色にも用いられているのです。
新たな酵素の発見と酵素の立体構造解明
藍染めにおいて、どのような微生物や酵素が存在して、どう作用しているのか、実はこれまで明確ではありませんでした。それを「知りたい」という藍染めの職人、藍師(あいし)と呼ばれる人々の要望によりスタートした研究があります。この研究では、これまで職人の経験や勘で作業していた部分を生化学的に解明していくことを目的としています。結果、そこで活動する微生物、遺伝子、酵素の構造などが明らかになってきています。この成果をフィードバックして、研究はさらなる応用について考察していくことになるはずです。
一般的に酵素は非常に熱に弱く、加熱すると変性するという性質がありました。しかしこの研究により、熱に強く安定性の高い藍染めに関わる酵素がいくつか発見されています。これを利用することで、藍染めはもちろん、そのほかの産業への応用にも役立つものと考えられています。
人の営みにも影響を
これらの研究は藍染めの生化学的解明に結びつくものですが、その一方で藍染めという伝統工芸技術の維持・継承、発展にも役立ちます。それがひいては、地方創生などにも結びついていく可能性があると言えるでしょう。伝統的な藍染めは化学的な試薬を加えて作製されるものではなく、自然にあるものを活用するため、地球を害する廃液も排出しません。つまり「地球に優しい」技術であり、それを保持、発展させていくことは、非常に意義あることだと言えます。
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東海大学農学部 食生命科学科 生物化学研究室 教授米田 一成 先生
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