人の心や体の反応をものづくりに生かす「感性工学」
物質的豊かさから、人が喜ぶものづくりへ
ものが不足していた時代のものづくりは、大量生産、大量消費が前提で、工学の研究テーマも、物質的な豊かさを実現するための技術の確立でした。しかし、ものがあふれる現代には、人は使いやすさや快適さを重視するようになりました。それにともない、工学の研究のテーマも、「人が喜ぶもの」をいかにつくるかということに変わっていきました。人が喜ぶものをつくるには、人の心や体の仕組み、考え方などを工業製品に反映させることが重要で、そのための技術を研究する分野として、1990年代に「感性工学」が登場しました。
体の反応を生かし、着心地のよいウェアを開発
感性工学を生かすと、筋肉の動きや脳波、心拍数、血流など、人の体の変化を計測することで、人の心や体の状態を把握し、その結果を踏まえて、その人にとって快適な製品をつくることができます。
例えば、着心地のよい被服を開発する場合、生地に使う繊維の種類や布の織り方、被服のデザイン、色などが着心地に影響を及ぼします。ですから、こうした要素を変えながら試作品をつくり、それを着用したときに心や体にどう変化が起きるかを計測し、その結果をもとに、その人にとって着心地がよい被服をつくるのです。
顔の表情変化を生かした居眠り防止装置も
こうした感性工学の技術を用いれば、被服以外にも、寝心地のよいベッド、疲れにくい車のシートなど、さまざまな快適な製品を開発することができます。しかも、快適さなどの感覚は、人によって異なるため、それぞれの人に対応した製品を開発することも可能です。
さらに、感性工学を利用すれば、新しい機能を備えた製品を開発することもできます。例えば、人に眠気が出てきたときの顔の表情の変化をセンサーでとらえ、その特徴を数理的にデータ化できれば、居眠り防止装置を開発することもできるでしょう。このように、感性工学を用いれば、人が健康に生活することを支援する製品を開発することができるのです。
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先生情報 / 大学情報
信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 教授 上條 正義 先生
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