異世界へのまなざし 古典とアニメの接点

「川」や「山」にある物語の仕掛け
古典文学に登場する「川」や「山」は、ただの風景描写ではありません。『伊勢物語』の「東下り」では、物語の場面が「川→山→川」と展開し、川の場面では必ず誰かが涙を流します。これは川が「現実と異世界との境界」を表す象徴だからです。川を越えることは別の世界に移ることを表し、移行の瞬間に生まれる感情が、涙となって現れるのです。この構造は、アニメ『千と千尋の神隠し』にも引き継がれており、主人公が川を越えて異世界に迷い込む展開は、まさに古典と共通しています。時代を超えて受け継がれる「境界」の物語に、日本文化の深い美意識が見えてきます。
恋を詠む和歌、詠まない漢詩
和歌と漢詩とを比べると、文化や価値観の違いがわかります。和歌では恋が多く詠まれる一方、漢詩では恋が中心テーマになることはあまりありません。文学の「感情表現」に、それぞれの文化の違いが表れているのです。また、和歌の魅力は「削ぎ落とす美学」にもあります。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という歌では、目に見えない季節の変化を、余計な言葉を削ぎ落として風の音だけで感じ取る、繊細な感受性が表現されています。少ない言葉で深い感情を伝える力が、和歌の魅力です。
「自分ごと」として古典に向き合う
古典文学に触れるとき、私たちは過去の人々の言葉や感情と出会います。千年前の和歌や、二千年前の『論語』に触れることは、今の自分と対話することでもあるのです。『伊勢物語』の登場人物の涙を、自分の経験と重ねたり、『論語』に自分の学びの姿勢を見いだしたりと、自分ごととして古典を読み解くと、作品の意味は一気に深まり、身近なものに変わります。学校の授業でも、ただ訳や文法を覚えるだけでなく、「この登場人物はなぜ泣いたのか?」と問いかけながら読み解くと、物語の奥にある思いや背景がきっと見えてくるでしょう。こうした学びは、ただ知識を得るだけでなく、自分を深く知るための入り口にもなるのです。
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信州大学教育学部 国語教育コース 教授西 一夫 先生
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