生物由来の化学物質をつくる!
天然物は医薬品開発の要
さまざまな医薬品が日々開発されて、医学の進歩を支えています。現在承認されている医薬品の中には、たくさんの「天然物」または「天然物類縁体」があります。「天然物」とは、自然界の動植物や微生物が生産する化学物質であり、一般的にはタンパク質などの高分子化合物以外のものを指します。また「天然物類縁体」とは、天然物の構造を少し変えた化合物のことで、天然物よりも優れた機能を発揮することを期待して、人工的につくられたものです。
漢方で使用される生薬の有効成分も天然物です。自然界から有効成分を見出し、その構造を決定し、さらに合成をするといった研究が、医薬品の開発において欠かせません。
天然物を合成する意義
天然物の合成は、古くは天然物の構造を確認する重要な手段でした。予想される構造を合成し、天然物と一致すれば「その構造が正しい」ということになります。
天然物がどのように働くかを調べるためには、天然物を使った実験が必要です。天然物の合成は、その実験に必要な「量」を供給することを可能とします。さらに天然物が合成できるようになると、その方法を基にして、天然物類縁体も合成することができます。合成経路が異なれば、合成できる天然物類縁体の種類も異なり、幅広い研究へと繋がっていきます。
三次元的な広がりをもつ分子構造
天然物の構造の特徴の一つとして「環構造」があり、複数の環をもつ天然物もたくさんあります。複数の環が組み合わさると、分子の構造が三次元的な広がりをもつようになります。生体内で働くタンパク質も三次元的な構造をもつため、複数の環をもつ天然物はタンパク質との相性がよいとされています。つまり、医薬品として向いているということです。
複数の環が組み合わさった構造を合成によってつくり出すのはかなり難しいことですが、そこに「天然物を合成する」という研究の醍醐味があります。日々の実験の中で予想もしなかった新しい発見があり、その蓄積が医薬品開発の将来に貢献していると言えます。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部・大学院創薬科学研究科 応用生命科学科 天然物化学研究室 教授 横島 聡 先生
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有機合成化学、天然物化学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?