最も低い音を出す太鼓の形は? 数学で考える身近な問題
微分や積分の可能性
高校でも習う微分や積分は、数学における解析学という分野の基礎です。変化を記述するために使うのが微分、量を記述するときに使うのが積分です。そのため、微分積分を応用すれば自然現象や生命現象などを説明することもできます。例えば、一番低い音を出す太鼓はどのような形か、という問いも計算によって解を導き出すことが可能です。
低い音を出す太鼓の条件とは
太鼓は、基準となる音が重なりあうことによって耳に届きます。人間の耳は低い音が聞こえやすく、高すぎる音は聞こえません。そこで一番低い太鼓の音を固有値と定めて、その音を出すために最適な太鼓の形を考えます。一般的な太鼓は丸い形をしていますが、数学では三角形や四角形など、さまざまな形の太鼓から出る音について考えることができます。振動を記述する式を用いて、固有値が最も小さくなるように計算していくと、低い音を出す太鼓の形を導き出せます。この問題は1920年代にも考えられていて、円形の太鼓が最も低い音を出す、という結論が出ています。しかしこの時点では、皮に材質が均一な膜を使用する、という設定で計算されていました。
膜の貼り合わせ方で音は変わる
そこで2000年代に、太鼓の形を固定した上で、膜の材質や貼り合わせ方を変えた場合、最も低い音になる太鼓はどのようなものか、という思考実験がなされました。AとBという2種類の膜があり、それぞれ密度が異なるとします。Aの膜とBの膜の比率を一定としてありとあらゆる貼り合わせ方の中で、最も低い音を出す膜の貼り合わせ方(最適解)を見つけていきます。すると、楕円(だえん)形の場合は中心に固めるように膜を貼る、四角形の場合は密度の高い膜を軸対称になるように貼る、などの結論が導かれました。膜の貼り合わせ方は無限にあるため、計算はかなり複雑になります。しかし実際に太鼓を鳴らして考えるのではなく、計算だけで答えを出すことができる、つまり、数式でシミュレーションができるのも数学の面白さだといえます。
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東京都立大学 理学部 数理科学科 教授 倉田 和浩 先生
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