数学的に作った「符号」のルールが、デジタルデータの正確さを守る
証明するのに300年近くかかったボールの問題
一つのコインの円周に沿って同じ大きさのコインを並べると、何枚まで並べられるでしょうか。実験してもらうと分かりますが、最大6枚です。では、3次元のボールで同じ問題を考えるとどうでしょうか。これも「12個まで」であることが知られているのですが、「どうやっても13個は並べられない」ことが証明されるまでに300年近くかかりました。これらを「接吻数(せっぷんすう)問題」と呼びます。この問題はもっと高次元の場合にも考えられており、4次元、8次元、24次元の接吻数は決着がついていますが、他の次元については未解決です。
小さな傷が入ったCDも正しく再生
「4次元」でさえ想像できないのに8次元、24次元なんて、と感じるかもしれません。しかし、接吻数を含む研究分野である「符号理論」は、すでに身近なところで活用されています。その1つがCDプレーヤーです。音楽CDのデータ記録面に少しくらいの傷や汚れがついていても、音飛びはめったに発生しません。符号理論の一分野である「誤り訂正符号」の技術を用い、デジタルデータにチェック用の符号を加えることで、データ読み込み時のエラーを訂正できるようになったのです。誤り訂正符号は「有限体上の高次元ベクトル空間におけるボールの詰め込み」として解釈できるため、接吻数問題と深くつながっています。
量子コンピュータにおける誤り訂正
現在世の中で使われているコンピュータでは、0、1が並んだデジタルデータの処理によって計算や通信を実現しています。そのためエラーが起こる場合は離散的なものだけ考えればよいことになります。 しかし実用化に向けて研究が盛んに行われている量子コンピュータの世界では、 0、1の二点系の代わりに「複素射影直線」という連続的なエラーが起こり得る系を用いて計算や通信を行います。 現在、量子コンピュータ上で計算や通信のエラー訂正を行うための符号の研究が盛んに進められています。
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広島大学 理学部 数学科 准教授 奥田 隆幸 先生
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