大量の株はどうやって売る? 金融の課題に挑む数理ファイナンス研究
株式の売却パターンを数学で検証
個人や金融機関が何らかの事情で大量の株を手放し、現金化したいときがあります。しかし、もし一気に大量の売り注文を出してしまうと、ほかの投資家は不安になります。そうなれば株価はどんどん下落し、結局、最初に大量の株を売った個人や金融機関が手にできる現金も減ります。そうならないよう、市場への影響を最小限にとどめて売却利益を確保するためには、一定期間内に少しずつ株を売却することが必要になります。このように、自分の取引行動が株価に与えてしまう影響は「マーケットインパクト」と呼ばれ、大量の証券をどのように分割して売却していけば最大の現金を得られるか、数学的なモデルを作って検証する「マーケットインパクトを考慮した最適執行戦略の研究」が脚光を浴びています。
確率論が研究の土台に
「数理ファイナンス」は、金融分野に関わる問題に数理的な枠組みを与え、その解法を提供することで意味のある問題解決をはかるという、応用数学の1つの分野です。金融市場には不確実な要素が多いため、測度論に基づく確率論が研究の土台になっています。例えば「マーケットインパクトを考慮した最適執行戦略の研究」では、どれぐらいの数の株数を売ったら、どれぐらい株価が下がるのかをマーケットインパクト関数として設定し、いろいろなパターンを想定して株価への影響を調べます。また、売却後に起きる株価の下落状況は毎回一定ではないので、不確実性も考慮した上で、どのように売却すればいいのか、数学的なモデルを作って検証していくのです。
将来性のある数理ファイナンス研究
研究では、現実の世界になるべく近いモデルを作れるかどうかがポイントです。実際は、株式を取り引きする人同士がお互いに様子を見ながら売買活動を行っているので、経済学の分野で使われる「ゲーム理論」なども取り入れて、問題を定式化する必要もあります。このように「数理ファイナンス」は、さまざまな理論や数式を用いながら経済の問題に挑んでいく実学であり、社会のニーズも高いのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 理学部 数理科学科 准教授 石谷 謙介 先生
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