講義No.08846 数学 経済学

大量の株はどうやって売る? 金融の課題に挑む数理ファイナンス研究

大量の株はどうやって売る? 金融の課題に挑む数理ファイナンス研究

株式の売却パターンを数学で検証

個人や金融機関が何らかの事情で大量の株を手放し、現金化したいときがあります。しかし、もし一気に大量の売り注文を出してしまうと、ほかの投資家は不安になります。そうなれば株価はどんどん下落し、結局、最初に大量の株を売った個人や金融機関が手にできる現金も減ります。そうならないよう、市場への影響を最小限にとどめて売却利益を確保するためには、一定期間内に少しずつ株を売却することが必要になります。このように、自分の取引行動が株価に与えてしまう影響は「マーケットインパクト」と呼ばれ、大量の証券をどのように分割して売却していけば最大の現金を得られるか、数学的なモデルを作って検証する「マーケットインパクトを考慮した最適執行戦略の研究」が脚光を浴びています。

確率論が研究の土台に

「数理ファイナンス」は、金融分野に関わる問題に数理的な枠組みを与え、その解法を提供することで意味のある問題解決をはかるという、応用数学の1つの分野です。金融市場には不確実な要素が多いため、測度論に基づく確率論が研究の土台になっています。例えば「マーケットインパクトを考慮した最適執行戦略の研究」では、どれぐらいの数の株数を売ったら、どれぐらい株価が下がるのかをマーケットインパクト関数として設定し、いろいろなパターンを想定して株価への影響を調べます。また、売却後に起きる株価の下落状況は毎回一定ではないので、不確実性も考慮した上で、どのように売却すればいいのか、数学的なモデルを作って検証していくのです。

将来性のある数理ファイナンス研究

研究では、現実の世界になるべく近いモデルを作れるかどうかがポイントです。実際は、株式を取り引きする人同士がお互いに様子を見ながら売買活動を行っているので、経済学の分野で使われる「ゲーム理論」なども取り入れて、問題を定式化する必要もあります。このように「数理ファイナンス」は、さまざまな理論や数式を用いながら経済の問題に挑んでいく実学であり、社会のニーズも高いのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 数理科学科 准教授 石谷 謙介 先生

東京都立大学 理学部 数理科学科 准教授 石谷 謙介 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

数理科学

メッセージ

数学の知識を社会に出てからどのように活用できるか、不安に思う人は多いでしょう。しかし近年は、金融工学や数理ファイナンス、機械学習、人工知能などの分野で数学は大きな脚光を浴びています。社会のニーズにはトレンドがありますが、数学の知識はどのような時代のどのような社会でも重宝されるはずです。数学が驚くほど役に立つ普遍的な学問であることを、ぜひ多くの人に知ってもらいたいです。
あなたが数学好きなのであれば、将来、社会で活躍できる場は必ずあるので、自分の好きなことに没頭できる道を迷わず選択してください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。