材料開発で人工肺のトラブルを防ぐ
医療機器の材料開発
病気の診断や治療の進歩のためには新しい医療機器の開発が必要です。医療機器は人の体に密接に関わるため、安全性が確実に保証されなければ使うことはできません。世界中でさまざまな最先端の医療機器が作られている中で、日本は特に医療機器に使用する材料開発の基礎技術が進んでいます。
人工肺の内部でトラブル発生
例えば肺そのものの手術や、肺の機能に影響するような手術の場合、手術中は肺の機能を代替する人工肺を使用します。人工肺は血中のガス交換が主な機能で、糸状のフィルターの束に血液を通すことで血液中に酸素を与え、不要な二酸化炭素を取り除きます。しかし、血液は生体内に存在しない異物に触れると凝固する性質を持っています。そのため、人工肺に血液を循環させると、フィルターなどに触れた血液が固まってしまうことがあります。フィルターが詰まると肺としての機能が低下するほか、固まった血栓が患者の体の中に流れ込み、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を引き起こす恐れがあります。
高分子被膜の材料が凝固を防ぐ
これに対し、患者の血液自体に凝固を起こさせない薬剤を投与することも、問題解決のひとつの方法です。しかし、手術や処置での出血が止まらなくなるリスクがあるため、薬剤の使用は最小限にとどめたいものです。そのため、血液が接触する人工肺の材料の表面を血液が凝固しない親和性に優れた材料で改良する必要があります。現在は高分子を用いた溶液を材料の表面に被膜したり、材料自体に練り込んだりすることで、材料の血液への適応性を高めています。
ただ、長期の使用が難しいのが現状です。すでに商品化されている人工肺は、手術中に使うことが目的であり、安全性が確保されているのは6時間程度です。それを1カ月に伸ばすことができれば、移植の待機患者が手術を待つ間にも使うことができます。そのために、血液が触れても凝固しない高分子を安定に被覆させるなど材料の工夫が新たな研究課題となっています。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 工学部 教授 高井 まどか 先生
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