私たちの「桜の春」はソメイヨシノによって作られた!?
桜の春の常識とは?
現代の私たちが「桜」として思い浮かべるのは、主に「ソメイヨシノ」です。日本の桜の7~8割は、この品種が占めると言われています。ソメイヨシノの大きな特徴は、花だけが一斉に咲いて散るところです。また大変に花つきがよい桜でもあります。桜の花には「一面を桜色に染めて咲いて1週間あまりで散ってしまう」というイメージがあります。実はこれはソメイヨシノにはあてはまりますが、ほかの桜は必ずしもそうではありません。そんなソメイヨシノが登場したのはたった百数十年前、幕末から明治の初め頃です。私たちの知る「桜の春」はかなり新しいものなのです。
ソメイヨシノ登場以前はどうなっていた?
ソメイヨシノ登場以前から日本人の多くは桜好きでした。古代からたくさんの和歌に詠まれてきましたし、江戸時代の浮世絵にもよく描かれています。ソメイヨシノ以外にも桜にはたくさんの種類があります。西日本のヤマザクラ、本州の山地近くに多いエドヒガン、南関東のオオシマザクラ、東北から北海道はオオヤマザクラなどです。花の咲く期間もそれぞれ少しずつ違い、東京ではエドヒガンは3月下旬、ヤマザクラとオオシマザクラは4月上旬、人の手を介してつくりだされた八重桜の多くは4月中旬が盛りです。
つまり桜は約1カ月間、次々と咲き代わっていくのを楽しめる花なのです。実際、昔の人は「桜の春」を今よりずっと長く楽しんでいました。花の美しさについても、ソメイヨシノのような一面の桜色だけではなく、八重桜によくある花の濃い紅とあざやかな葉の緑の組み合わせがいい、とか、白い花と葉の緑と枝の茶の取り合わせが一番、といったさまざまな色彩感覚がありました。
人々の感覚が変化した!
ソメイヨシノが全盛を誇る現在ですが、昔からの桜も変わらず咲いています。「桜の春」が1カ月から1週間余りに縮まり、ぱっと咲いてぱっと散るものとなったのは、桜の咲き方自体が変わったからではありません。ソメイヨシノの登場にともなって、人々の感覚が変わったことによるものなのです。
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