慢性の痛みの原因となるタンパク質を突き止め、新しい鎮痛薬の創出を
痛みはなぜ慢性化するのか?
私たちが感じる痛みは、「生体の警告」という重要な意味を持っており、けがや病気に気づくための大事なシグナルです。やけどや捻挫などの炎症性の痛みは急性痛と呼ばれ、バファリンやロキソニンなどが鎮痛薬として使われています。一方、椎間板ヘルニアや坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛など「神経障害性疼痛(とうつう)」は慢性痛で、治りづらい痛みです。大事なシグナルとはいえ、長引く痛みは心や生活の質(QOL)にも影響を及ぼします。慢性痛向けの鎮痛薬もありますが、慢性痛のメカニズムにはまだ不明な点が多く、さらに有効で副作用の心配が少ない鎮痛薬の開発が急がれます。
創薬をコンピュータで効率的に
行動薬理学や遺伝子工学なども取り入れた研究の結果、「PACAP」と、PACAPにくっつくことで働く「PAC1受容体」という2つのタンパク質が、痛みの慢性化に深く関わっていることがわかりました。PACAPがPAC1受容体にくっつかないようにすれば、慢性痛の抑制につながるわけです。
PACAPがPAC1受容体にくっつかないようにするためには、阻害する作用のある化合物を見つけ、薬の成分として用いればいいのですが、その候補は約400万種類にもおよびます。そこで有効なのが「インシリコスクリーニング」というシステムです。構造などの情報や条件をコンピュータに入力すると、優れた性質の化合物の候補を選び出してくれるのです。
世界初のPAC1受容体小分子阻害薬
ただし、生体内におけるタンパク質はさまざまに形を変えて存在しており、コンピュータが選んだ候補が理論どおりに効くとは限りません。そこでその後、薬理学の実験が行われ、種々のモデルマウスによって鎮痛作用が示され、世界初となるPAC1受容体の小分子阻害薬が開発されました。この成果を受けて、製薬メーカーとの共同研究も進んでいます。実験ではPAC1受容体阻害薬に大きな副作用が見られなかったことから、新しい鎮痛薬への発展が期待できます。
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富山大学 工学部 工学科 生命工学コース 准教授 髙﨑 一朗 先生
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生体情報薬理学、神経薬理学、医薬品化学先生が目指すSDGs
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