環境にやさしい医薬品開発のキーワードは「有機触媒」

環境にやさしい医薬品開発のキーワードは「有機触媒」

分子を構築して作られる新しい薬

薬はほとんどが分子でできています。例えばインフルエンザの薬、オセルタミビル(タミフル)は炭素、窒素、水素、酸素といった原子が組み合わさってできた分子です。分子を構築するためには、のりやはさみのように原子をくっつけたり切り離したりする技術が組み合わされて使われています。さらに、新しい触媒(化学反応の速度を速める物質)や反応を開発することも必要です。こうした分野の研究が、有機化学です。そして、有機化学の世界ではここ数年、環境を汚さないための技術開発が行われています。

環境を汚さないための技術とは?

環境を汚さない技術開発のポイントは3つです。
まず、従来の金属を使った触媒に代えて炭素や酸素、水素、窒素だけを使った有機触媒を用いた反応の開発です。金属触媒は活性が高いのが利点ですが、毒性のあるものが多く、環境を汚すことが問題になっていました。次に、分子の合成のプロセスでは有機溶媒を使用するものが大半なのですが、これも環境汚染の原因になる上、燃やして処分するときに二酸化炭素を出すことが問題になっていました。しかし、有機触媒を使うことで水を溶媒に使えるようになりました。金属触媒は水と相性が悪いので使えなかったのですが、有機触媒では水で多くの反応がうまくいくのです。そして、3つ目が触媒のリサイクルです。金属触媒は使ったら廃棄するしかないのですが、有機触媒は特定の技術を使うと回収再利用することができるのです。

有機触媒研究の課題

有機触媒は、金属に比べると活性がやや弱いのが問題なので、金属と同等の活性を求める場合は多くの量が必要になります。そこで、より活性が高い有機触媒の開発が研究されています。リサイクルできる触媒はその解決策のひとつです。この有機触媒の研究は医薬品以外の分野にも広がっていく可能性がある最先端の研究で、現在世界中で研究競争が行われています。
薬学は、薬剤師になるためだけの学問でなく、こうした研究も進めているのです。

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先生情報 / 大学情報

東京薬科大学 薬学部 医療薬物薬学科 教授 三浦 剛 先生

東京薬科大学 薬学部 医療薬物薬学科 教授 三浦 剛 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

有機化学、薬化学

メッセージ

薬を作り出すには化学の力が不可欠です。化学の力を活用すれば、プラモデルのように原子を切ったり、くっつけたりすることができるだけでなく、新しい分子を作り出すこともできます。
薬学部でしっかり学べば、あなたにも世界でまだ誰も作ったことがない分子を作り出すことができます。多くの人々を救うことができる新しい薬を作り出せるかもしれません。薬に興味があって、新しい分子を作ってみたいなら、薬学部に来て学んでみませんか?

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

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東京薬科大学は私立で最初の薬学部と、日本で初めての生命科学部を併せ持つ大学です。
緑に映える赤レンガのキャンパスでは、両学部とも多彩な実験や研究活動を通じて、学生が自ら考える力を伸ばすこと、医療分野、生命科学・環境分野でヒューマニズムあふれるスペシャリストの育成を目指しています。