交差する曲線が導く新たな数学の地平
エネルギーを最小にする形
シャボン玉が丸いのは、表面張力が最小な状態が安定しているからです。数学的に言うと、シャボン玉の膜は体積を一定に保ちながら表面積を最小にする形をとります。この現象は、微分方程式を用いて解析されます。具体的には、エネルギー最小化の問題として定式化することで、「最もエネルギー効率の良い形状」が球形であることがわかります。
領地を最大にするには?
このように、曲線や曲面などある種の対象に対してエネルギーを最大・最小にする問題は、数学的には「変分問題」と呼ばれて古くから研究されてきました。その一例として、曲線の長さを一定にしたときに、その曲線で囲まれる図形の面積の最大値に関する不等式があります。この不等式は「等周不等式」と呼ばれ、シャボン玉の形状とも直結するものです。その起こりは、紀元前に「1頭の牛の皮で囲める面積を領地として与える」と言われた王女が、その面積を最大化する方法を探究して「海岸線を背にして半円で囲むと最大になる」と見つけたことと伝えられています。
交差する弾性曲線を予測する
変分問題の幾何学的対象の一つは、針金や釣りざおのように弾性を持つ線が描く曲線、すなわち「弾性曲線」です。曲線の長さが一定という制約の下で、「曲げエネルギー」が最小になる曲線が安定な形状になります。弾性曲線は18世紀から研究されており、古典的な理論が確立しています。しかしこの古典的な理論では、曲げた線同士が交差して、接点での力が釣り合うことで安定するケースを扱うことができず、閉じた針金の形状を変えたときの安定な形は「一重巻きの円」のみです。
実際にはほかの形も実現できるという予想の下で、交差を考慮した新しい不等式が示されて、従来の理論では導出できなかった形状が理論的に予測されました。例えば3重点を持つ閉曲線のうち、最も曲げエネルギーが小さい状態は「三つ葉のプロペラ状」の形であることが予測されました。針金を使ってこの形状を制作したところ、予測の通りに形が保たれることが確認されています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。