宇宙の謎と人類の月面進出に放射線測定で挑む!

宇宙の謎と人類の月面進出に放射線測定で挑む!

X線で見る宇宙の姿

普段私たちが見ている星空は、宇宙の一つの側面にすぎません。宇宙には、肉眼で見えないX線で輝いている、さまざまな天体があるからです。これらの天体から届くX線を観測すれば、可視光で見るときとは違った宇宙の姿が見えてきます。
X線で観測できる天体には、ブラックホールや中性子星、超新星残骸などがあります。中性子星は大きな星が爆発して残される天体です。非常に高密度で、半径10 kmの中に太陽を超える質量が詰まっています。このような極限状態の宇宙で、どのような物理現象が起きているのかを、X線を観測することで調べるのが「X線天文学」です。X線は地球の大気にほとんど吸収されてしまうため、人工衛星に装置を乗せて観測します。

放射線の測定技術を雷観測に応用

X線で宇宙を観測する技術を応用して、雷雲から発生する放射線の研究も行っています。日本海沿岸で冬季に雷雲が通過すると、放射線の一種であるガンマ線が地上に降り注いでいることがシチズンサイエンスも活用した研究でわかってきました。また、その観測プロジェクトを進めていく中で、雷が発生した瞬間に、雷雲から降るガンマ線だけでは説明がつかない強烈な放射線が検出されたのです。この研究の結果、雷によって原子核反応が起こり、電子の反粒子(陽電子)が発生していることがわかって世界で初めての発見となりました。

宇宙放射線で人類の宇宙進出に貢献

放射線の測定技術は、宇宙開発でも活躍します。その一つが、月面での「水資源探査」です。高エネルギーの粒子である宇宙線が月面に衝突すると、原子核反応を起こして中性子が高速で飛び出します。高いエネルギーを持つ高速中性子は、水があると散乱してエネルギーの低い熱中性子や熱外中性子になります。これらを観測すれば、月面を掘らなくても水資源がどこにあるかを探すことが可能になると考えられます。そこで、月面探査車に搭載できる小型の観測器の開発が進められています。水は飲料のほか燃料にもなるため、水資源探査は宇宙進出のカギだといえます。

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京都大学 理学部 物理学・宇宙物理学専攻 准教授 榎戸 輝揚 先生

京都大学 理学部 物理学・宇宙物理学専攻 准教授 榎戸 輝揚 先生

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宇宙物理学、宇宙科学

メッセージ

最近の機器は、ボタン一つでなんでもできてしまいますが、実はその中には物理現象の積み重ねをうまく使った技術が入っています。物理学とは実験と観察によって蓄積された自然界の仕組みを記述する言語であり、物理学を勉強すると、そうした身の回りにある物の仕組みから宇宙の構造までさまざまなことが理解できます。これが物理学の面白いところであり、物理学者にならなくても人生の役に立つものです。物理学では触って理解することが大切なので、ぜひ実験などで自分の手を使って学んでほしいです。

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