古典は「妄想力」で楽しもう!
琵琶は平安~鎌倉時代のトレンド
昔の日本にも流行の音楽があり、平安時代末期から鎌倉時代中期までは雅楽、なかでも琵琶がトレンドでした。承久の乱を起こした後鳥羽天皇は、和歌や蹴鞠(けまり)などに精通した多芸多才な人物で、琵琶も得意でした。さまざまな話を集めた説話集の『古今著聞集』には、後鳥羽天皇が琵琶を習うときのエピソードが収められています。
天皇に悪口も
後鳥羽天皇は二条定輔(さだすけ)という師範に琵琶を習っていました。定輔の琵琶は西の流儀でありながら、一部分は師匠から桂の流儀で教えられています。一方、西の流儀の家元的存在である藤原孝道は、そんな定輔が天皇に琵琶を教えるのが面白くありません。そこで、後鳥羽天皇に対して「おそれはあれども、君の御琵琶は束帯正しくしたる人の、折烏帽子着したるに似させ給ひたる」(あなたの琵琶は正装に似合わない帽子をかぶったようなもの)、言い換えると「燕尾服といえば帽子はシルクハットなのに、ベレー帽をお召しになっているみたい」と悪口を言います。
身分制の社会では、天皇に悪口を言うなどあり得ないことですが、琵琶において孝道のほうが上だと考えた後鳥羽天皇は罰しませんでした。後鳥羽天皇は乱を起こすほどの激しい性格である一方で、この場面からは寛容な部分も持ち合わせていたことが推察されます。また、音楽を志す孝道のこだわりの強さ、プライドの高さもうかがえます。厳しい身分社会の中で、芸を指導する人は権力者に教えることで尊敬を得られました。身分を超えられるチャンスになるからこそ、激しい争いや執心が起きたのでしょう。
登場人物をキャラ立ちさせる
政治や権力の動きなどの歴史的な背景、時代ごとの文化への理解により、古典をより深く味わうことができます。知識が増えるほど、登場人物の個性を確立していくことができます。その本を作った編者の年代やパーソナリティを加えると、さらに理解は深まります。古典を面白くするのは、豊かな知識とそれを膨らます「妄想力」なのです。
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先生情報 / 大学情報
清泉女子大学 総合文化学部 ※2025年4月開設 総合文化学科(日本文化領域) 准教授 姫野 敦子 先生
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