後世の物語との比較でわかる『源氏物語』の魅力

後世の物語との比較でわかる『源氏物語』の魅力

中世の物語は『源氏物語』のパクリ?

源氏物語が書かれた後も、名前もわからない作者たちの手によって、物語はずっと書き綴られてきました。中でも平安後期の三大物語と言われる『狭衣(さごろも)物語』『夜の寝覚(ねざめ)』『浜松中納言物語』は、『源氏物語』の影響を受けつつも、オリジナルの要素も加わった完成度の高い作品となっています。しかし、鎌倉時代から室町時代に書かれたとされる二十数編の物語は、『源氏物語』の影響を受けているという点では同じですが、文章を丸写ししていたり、内容を誤解してまとめていたりと、作品としてのレベルはかなり劣っています。

昔の人も物語の続きが読みたかった

このような後世の物語と比較することで、『源氏物語』の魅力は一層明らかになります。当時、『源氏物語』ほど完成度が高く、すぐれた作品は存在しなかったのです。その一方で、後世の人たちが『源氏物語』をどのように見ていたのかもわかります。中世の作品の中には勝手に『源氏物語』の続編を書いたものもありますが、中途半端に終わる物語の続きを、当時の人も読みたかったのでしょう。時代が離れていくにつれて梗概(こうがい=ダイジェスト)本が読まれるようになったことも、『源氏物語』の内容が誤って理解された要因と考えられます。現在でも、漫画や映画で『源氏物語』が原文とは違う解釈で描かれていることがありますが、当時から同じようなことが起こっていたのです。

人は自分の物語を書かずにはいられない

『源氏物語』の本当のおもしろさは、原文の中にあります。時代を超えて、ここまで愛されてきた理由は、恋愛や政治、雅(みやび)な世界だけでなく、必ずそこに人間の「心」の問題が絡んでいるからです。中世の物語には、『源氏物語』への愛や尊敬が溢れています。まさにファンが書いた同人誌のレベルですが、そこには、自分の物語を書かずにはいられない、人間の性(さが)が垣間見えます。それは、現代人がブログで私生活を公開する行為と通じているのかもしれません。

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清泉女子大学 総合文化学部 ※2025年4月開設 総合文化学科(日本文化領域) 教授 藤井 由紀子 先生

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物語文学

メッセージ

清泉女子大学では『源氏物語』が2年生の必修科目になっていますので、入学すると全員が1年間で物語のあらすじがわかるようになります。授業の中で学生たちは、ヒロインに感情移入して涙を流したり、光源氏に腹を立てたり、あるいは原文と漫画の違いなどから、物語の奥深さを学んでいます。大学で『源氏物語』を勉強したい人は、高校生のうちから海外文学の名作など、あえて違うジャンルの文学に触れておくことをお勧めします。なぜなら、いろいろな作品と比較することで、あらためて『源氏物語』の偉大さが理解できるからです。

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清泉女子大学は2025年4月に総合文化学部と地球市民学部を開設しました。総合文化学部は日本文化・国際文化・文化史の3領域、地球市民学部は地域共生・ソーシャルデザインの2領域で構成されています。
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