江戸時代にも、偉大な「シンガーソングライター」がいた!
戦乱の世の人々に「隆達節」が大ヒット!
戦国時代、「花よ月よと暮らせただ、ほどはないもの、うき世は」という流行歌がありました。この歌を作ったのは「高三隆達(たかさぶりゅうたつ)」という人物で、歌詞には「花は美しい、月がきれいと、ただ思うままに生きるが良い。人の一生は短いのだから」という意味です。当時は、戦乱や疫病などで多くの人々が亡くなり、隆達自身も明日をも知れぬ身の上でした。そのような時勢の中で、隆達は命のはかなさや短さといった「無常観」を表しつつ、だからこそ人生を謳歌しようというメッセージを歌に込めたのです。隆達が作った歌は「隆達節」と呼ばれ、全国規模で大ブームを巻き起こしました。
多才なシンガーソングライター「高三隆達」
高三隆達は、大阪の堺で薬種商を営む家に生まれ、幼少期に出家して日蓮宗の僧侶となります。隆達は自分で歌詞を書き、節を付け、自ら歌い、その歌声はとても美しかったと言います。約500曲のレパートリーを持ち、その中にはオリジナル曲をはじめ、前時代の歌謡のカバー曲もあります。現代で例えれば隆達は「シンガーソングライター」であり、多才な音楽アーティストだったと言えます。私たちが自分の気持ちや社会の世情に重ねて音楽を楽しむように、隆達節は戦乱の世を生きた人々の心に強く響いたのです。
古典の表現は、現代のヒット曲にも通じる
室町時代の歌謡の表現は、現代のヒット曲にも見ることができます。例えば「二重の帯が三重回る」とは、体がやせてしまうほどの恋の切なさを表しており、同じフレーズが昭和の歌姫、美空ひばりの楽曲に使われています。また、「思い出すとは忘るるか 思い出さずや忘れねば」は「思い出すのは忘れていた証拠。ずっと想っていれば思い出すなんて言わない」という意味です。それと似通った表現が、浜崎あゆみの楽曲の歌詞に出てきます。古典の歌謡は過去のものではなく、普遍的な表現として今も息づいているのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 グローバル教育部門 特任教授 小野 恭靖 先生
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