いにしえの恋にときめくその思い 三十一文字に込めて
恋の始まりは「うわさ」から
会いたいときにすぐ会えて、スマホで簡単につながることのできる現代とは違い、男女の出会いの場がほとんどなかった平安時代の恋のきっかけは、位の高い女性に仕える人(女房)たちが周囲に流す「うわさ」からでした。
素晴らしい女性がいるといううわさを聞きつけた男性は、早速、相手を品定めに行くのですが、もちろん直接会えるわけではありません。牛車(ぎっしゃ)や御簾(みす)の裾からチラリと見える着物の袖や黒髪によって、相手がどんな女性なのかと想像を膨らませていたのです。
平安時代のラブレターとは?
当時の男性は、意中の女性に対して、五七五七七の和歌に思いを託して贈っていました。言葉を厳選し、三十一文字(みそひともじ)の中に自分の思いを凝縮させたのです。簡単に会えない時代だからこそ、言葉がより重要だったのです。歌を書きつける和紙の色は、白だけでなく、染め紙を使って色に変化をつけたり、また植物の枝にくくりつけて贈ったり、香をたいて香りを付けたりして、なんとか相手を振り向かせようと創意工夫を凝らしていました。和歌の才能に優れ、美文字で、贈り方のセンスも抜群なことが、平安の世のモテ男の必須条件だったのです。
恋する気持ちはいつの世も同じ
古今和歌集には、男性からのこんな恋歌があります。「つれづれの ながめにまさる なみだ川 袖のみ濡れて あふよしもなし」(長雨にまさるほど涙が流れて水かさが増したけれど、袖がぬれるばかりであなたに会うすべがありません)。これに対して女性は「浅みこそ 袖はひつらめ なみだ川 身さへながると 聞かばたのまむ」(浅いから袖だけ濡れるのね。体ごと流されるほど泣いていると聞けば当てにするのに)と冷たくあしらう返事をしています。さて、このカップルの恋の結末やいかに?などと想像してみるのも楽しいものです。押したり引いたり焦らしたり、恋愛の駆け引きに一喜一憂するさまは、昔も今も同じです。そんな見方をすれば、古典はもっと面白く、もっと身近なものになるでしょう。
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京都精華大学 国際文化学部 人文学科 文学専攻 准教授 惠阪 友紀子 先生
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