AIをベテラン船長に育てる? 船舶の自動避航の研究
船の衝突を自動で避ける
船の自動運転の研究が世界的に進められています。中でも、海上での衝突を避ける自動避航は重要なテーマです。航海中は常に衝突に気を配らなければならず、船員にとって大きなストレスをともないます。
船舶の世界では船同士が衝突しそうな場合は、互いに右に避けるという万国共通のルールがありますが、3隻以上が関係するケースでは個々の判断に任されています。こうしたケースでは船長や航海士の経験と能力に左右され、衝突のリスクを完全になくすことは困難です。
ベテラン船長の判断を解析
現在の研究では、人の衝突予測のメカニズムをAI(人工知能)に応用するための準備が行われています。ベテラン船長の船の動かし方は、何気なく舵を切っているようでも、実は状況を的確に判断し、前もって危険を避けています。例えば前方で2隻の船が衝突しそうな場合、まずはより危険な方の船を特定し、そちらに注意を向けながら安全な距離を確保する、といった判断をスムーズに行っています。このような、複雑な状況から優先的に認知する情報を選択し、判断するといった人間ならではのプロセスを解析し、プログラミングすることで、AIに人間のような判断をさせようとしています。
実用化プロジェクト
現在、北欧では完全自律運航フェリーや無人のコンテナ船を使った荷物の積み下ろしまでのデモンストレーション・実海域実験が行われています。日本でも実用化を目標に研究が盛んに進められています。しかし、日本は港に出入りする船の数が多く、また入り組んだ地形の海岸線が多いこともあり、自動運航や自動避航にはいくつかの課題が残っています。それでも船の自動運転が実現すれば、働き手不足に悩む船舶運送の業界に貢献できるだけでなく、船内の人の居住スペースが空くことで、荷物の積載量を増やすことができます。運送の効率が高まると、コストが下がり、無駄なCO₂排出量も削減されるなど、環境への貢献も期待できるのです。
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東京海洋大学 海洋工学部 海事システム工学科 教授 田丸 人意 先生
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