北前船で関西から東北へ! 海から運ばれた言葉
スズメの鳴き声はどんな音?
スズメの鳴き声といえば、「チュンチュン」という音を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、言葉の歴史の変遷をたどると、昔は違った表現もされていました。例えば、鎌倉時代の『名語記』には「シウシウ」とあり、江戸時代の俳文集『風俗文選』には「チイチイ」とあります。また、地域によっても異なりました。1955年に行われた国立国語研究所の方言調査によると、関東・中部・中国・四国・九州の地域では「チューチュー」と表現されており、「チュンチュン」と表現したのは近畿地方だけでした。ところが、東北の青森・秋田でも関西系の「チュンチュン」が使われていたことがわかっています。
北前船が運んだ言葉
民俗学者の柳田國男は、言葉は文化の中心から周辺地域へ地をはうように広まっていくという「方言周圏論」を唱えました。しかし、関西から飛び火して存在する青森・秋田の「チュンチュン」はどう考えればよいでしょうか。
江戸時代から明治時代にかけては、瀬戸内海から日本海を通じて大阪と北海道を結び、物を運んだ「北前船(きたまえぶね)」が活躍しました。日本海側の地域にはその寄港地がありました。実は、東北地方でも日本海沿岸地域には、江戸よりも大阪や京で出版された本の方が多く残っています。東西を縦に割る奥羽山脈が連なって南には越後山脈が接する東北で、陸の流通が困難だった日本海側地域には、港を通じて関西の本が多く運ばれたのでしょう。北前船は物だけでなく、人や本を通じて言葉や文化をも運んだのです。
文化の影響は一方通行ではない
このように言葉や文化の波及は単純ではなく、必ずしも日本の中心である江戸の影響が一番色濃いというわけでありませんでした。さらにいえば、関西から東北への影響だけでなく、東北から関西への影響もあったはずです。関西と東北の関係性は、言語という一つの要素に縛られず、さまざまな分野から多角的に調査することで、より鮮明に見えてくるでしょう。
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武庫川女子大学 文学部 日本語日本文学科 教授 郡 千寿子 先生
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