脳の設計図は5億年前にできた? 脳の研究が解き明かす生物の進化
脳の多様性
脳は動物によって形や働き方が大きく異なっており、人間の脳の形や見た目はそのひとつにすぎません。原始的な生き物の脳はとても単純な構造だったと考えられますが、進化の枝分かれによって多様な動物が生まれ、脳も進化と多様化を遂げてきました。
例えば鳥とネズミの脳を比べた場合、両者に同じ特徴があれば、それは枝分かれする前からあった特徴であるといえます。このように、さまざまな脊椎動物の脳を細かく調べ、比較することで、進化の過程を明らかにする学問を、比較形態学や進化形態学といいます。
胚の発生から脳の進化を知る
しかし、動物の脳をたくさん手に入れることは難しく、また成長した脳は非常に複雑な構造をしているので調べることも困難です。ですから、成長した生物の脳ではなく、発生中の胚を調べ、脳ができていく様子を比較する手法がとられています。例えば鳥とネズミの場合、ある程度までは同じように発生が進みますが、どこかで違う発生を示します。その分岐点が特定できれば両者の脳に共通する要素がわかります。この新しい学問を進化発生学といいます。近年では遺伝子の解析技術が進歩し、大脳や小脳といった特定の部分ができるときにどの遺伝子が関係しているのかも詳しくわかるようになりました。こうしてたくさんの動物の胚からデータを集め、比較・研究することで、脳の基本的な設計図が明らかになっていくのです。
進化の歴史、その先も明らかに
遺伝子の研究によって、ショウジョウバエの脳をつくる遺伝子の多くが、私たち人間の脳を作る際にも使われていることがわかっています。また、ヤツメウナギやヌタウナギといった原始的な構造をもつ円口類と、哺乳類の脳とは非常に似ていることもわかってきました。このことから、人間の脳の基本型は5億年以上前にはできていた、ということもできます。今後もさらなる研究が進むことで、こうした脳や生物の進化の歴史がより鮮明にわかるだけでなく、今後どのように変わっていくのかという進化の先をも予測できるようになるかもしれません。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
愛媛大学 理学部 理学科 生物学コース 教授 村上 安則 先生
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