ワクチンを使い魚の病気を予防しよう!
病気になった魚はほぼ回復しない
養殖業者にとって魚の病気は死活問題です。管理の行き届いた近年は大規模に魚が死ぬことはあまりありませんが、もし病原微生物が大量発生すれば大打撃を受けます。病気になった魚は、ほぼ回復しないからです。以前は抗生物質で病原微生物をコントロールしていたのですが、2000年頃からはワクチンで病気を防ぐ手立てが考えられるようになりました。今はさらに多くの病気を防ぐワクチンが求められています。また、現在は「淡水浴」という、寄生虫を落とすため魚を真水に浸けるようなことも行っており、研究が進めばこうした重労働を軽減できる可能性もあります。
魚も抗体を作れる!
ワクチンは脊椎動物の生体防御機構、「免疫」を利用し微生物への抗体を作らせる仕組みです。遺伝子解析が進み、魚類は脊椎動物の中で最初に免疫を獲得したことが明らかになっています。しかもヒトの場合、血液中にあるタンパク質のうち抗体が占めるのは10%程度ですが、最初期に免疫を持った軟骨魚類、例えばサメの血中タンパク質は50%が抗体です。このことからサメに長生きする種が多いのも、抗体の量が多いからではないかという説もあります。また抗体は過去に出会った病原体を認識して作られるものですが、サメはこの点も特殊で、過去に出会ったことがない病原菌に対しても抗体を作ることがあります。
サメの抗体を使った医薬品の開発
基本的にヒトの病気は魚にかからないし、魚の病気はヒトにかかりません。それでもそれぞれの免疫を相互に応用できないかと、例えばサメの特殊な抗体を使った、ヒト用の医薬品の開発も模索されています。ただし、同じサメでも種類により免疫の仕組みが違い、コモリザメが作れる抗体をトチザメは作れないなど、生体防御機構は魚種固有なところがあります。魚の免疫はまだ不明な点が多いのですが、調査する魚種の幅を広げ、生息域や今までどんな病気と出会ったかを解析することで、従来とは少し違う進化の道筋が見えてくるはずです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 近藤 秀裕 先生
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魚介類免疫学、魚介類生理学先生が目指すSDGs
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