脳をだませ! 身体麻痺の治療「ミラーセラピー」とは

脳をだませ! 身体麻痺の治療「ミラーセラピー」とは

鏡を用いて麻痺した部位を回復させる

脳卒中などで半身麻痺(まひ)が出てしまった患者の回復を促す方法として、「ミラーセラピー」があります。例えば、麻痺の症状が出て動きにくくなっている腕などを鏡の裏側に隠し、反対側の動く腕を鏡に映し動かしてみます。ちょうど動きにくくなっている腕の位置に映るようにすると、脳はその腕が自由に動いていると錯覚を起こします。脳卒中で麻痺が生じた時は、脳からの命令を伝える神経の束に起きた障害が原因のことが多く、脳内で腕の動きをつかさどる部分は無事な場合があります。脳が錯覚を起こすと、脳内で腕の動きをつかさどる部分の血流量が増えるため、その刺激が脳の活動を高め、神経に命令が多く伝わります。これを繰り返すことで、動きの回復につながっていくのです。

まだまだ根拠が不十分な作業療法

ミラーセラピーは患者によって向き不向きがあり、すぐに効果が現れる人もいれば何度か実施しても効果がみられない人もいます。リハビリテーションの世界にはさまざまな手法が開発されており、現場では実際にリハビリテーション手技を試して、患者の様子をみながら継続するか否かを判断していくことがあります。薬物療法の場合は原理がはっきりしているものが多く効果もわかりやすいのですが、作業療法の分野ではまだその効果がはっきりしていないものも多く、治療の判断がスマートに行えないことがあります。

運動イメージ能力の高さとの関連

しかし、原理や適性がつかめれば治療法選択への悩みが減り、患者により効果の高い治療法を素早く提案することができます。患者の1日も早い回復を願い、研究が進められています。例えばミラーセラピーに関する研究では、運動をイメージする能力が高い人はミラーセラピーでの脳の反応が高くなることがわかってきました。これは自分の動きに対するイメージ力が強い人は、ミラーセラピーが高い効果をもたらす可能性があることを示しています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

信州大学 医学部 保健学科 作業療法学専攻 講師 岩波 潤 先生

信州大学 医学部 保健学科 作業療法学専攻 講師 岩波 潤 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

作業療法学

先生が目指すSDGs

メッセージ

病気になりベッドで過ごしている患者さんは、みな「元のように歩きたい」と口にします。歩くというのは手段なので、実はその先に患者さんの本当にやりたいことがあります。作業療法士はそういった患者さんの心を大切にし、やりたいことや大事にしたいことが再びできるように回復を手助けしていく職種です。また、その目標に近づいた時や達成できた時に、一番早くそこに触れられるのが作業療法士の醍醐味(だいごみ)です。患者さんの笑顔や感謝の気持ちに直に接する、本当にやりがいのある楽しい仕事です。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

信州大学に関心を持ったあなたは

信州大学は、人文・教育・経法・理学・医学・工学・農学・繊維の8学部からなり、すべての学部に大学院が設置されています。教員は約1千人、在学生数は約1万1千人で、世界各国からの留学生約400人も意欲的に学んでいます。
松本、長野、上田、伊那に位置するいずれのキャンパスも、美しい山々に囲まれ、恵まれた自然のもと、勉学にも、人間形成の場としても、またスポーツを楽しむにも最適の環境にあります。さらに、地域との連携がきわめて良好であり、地域に根ざした大学としての特色も発揮しています。