褒め言葉が運動の習得を促進する
リハビリテーションを支える理学療法士
理学療法士は主に病院や介護施設などでリハビリテーションを行う国家資格職です。さまざまな要因で運動機能が低下した人に対して、元の日常生活を送るために必要な体の動作を取り戻す手助けをします。また、災害での長期の避難所生活や緊急事態宣言下の外出自粛でも、人々の活動のレベルが下がることで体への支障が出る可能性があります。これからは予防の段階から理学療法士が関わることも必要になるでしょう。
脳は「報酬」に反応する
リハビリテーションで正しい動きを覚えるためには、運動学習に基づいた指導が大切です。スポーツや楽器演奏などの練習では「体で覚えろ」と言われることがありますが、運動能力の獲得は脳の中で起きる現象です。例えば、バスケットボールでシュートを投げた時に、ゴールに入らずに右側に落ちてしまったら、もう少し左に投げればいいと小脳が判断し、次にフィードバックされた運動の修正を行います。
さらに複雑な技術を習得するときは、大脳基底核が重要な役割を果たします。例えば犬などのペットをしつける際に、良いことをしたら食べ物を与えたり、なでたりします。これらの「報酬」に適応して、自発的にある行動を行うように学習することを「オペラント条件づけ」と呼び、大脳基底核の辺縁系という部分が関わっています。学校や習い事で、先生に褒められているうちに何かができるようになるのは、指導する先生の言葉が報酬となり、脳が反応して、その課題を習得するからです。
声掛けの工夫が効果を発揮
これらの運動学習の概念を、リハビリテーションでも声掛けに応用します。「前より3センチ進みました」「10秒から3秒に縮まりました」などの細かな情報により小脳へのフィードバックを促しながら、同時に「うまくいきましたね」「とてもいいですね」と褒めることで、大脳基底核を反応させます。リハビリテーションでの声掛けは、ただ患者さんを励ますだけでなく、理論に基づいた効果があるのです。
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先生情報 / 大学情報
帝京平成大学 健康メディカル学部 理学療法学科 教授 阪井 康友 先生
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