液体や非晶質状態が教えてくれる物理の魅力
形のないものの研究
化学や物理学で扱う単位として、物質は10²³個の原子からなっています。しかし、その最小ユニットはわずか数個の原子の連なりです。結晶とはそれが3次元的に規則正しく連なった固体ですから、最小ユニットさえわかれば結晶全体のこともわかります。一方、気体は互いの距離が広いため、1つの原子や分子の様子から全体の特徴をつかめます。このように固体や気体はとらえ方がはっきりしているため、かなりの部分が明らかにされてきました。しかし、その中間の状態ともいえる液体や非晶質(原子や分子が不規則な配列をしている固体)には多くの謎が残されています。
2種類の水
私たちの体の大部分を構成する「水」にも大きな謎が残されています。それは「なぜ氷は水に浮くのか」という謎です。ほとんどの物質は同じ体積なら液体より固体の方が重くなりますが、水は例外的に固体の方が軽くなるため、氷が水に浮きます。その理由の核心に迫ることができたのは、この20年ほどのことです。どうやら水には「重たい水」と「軽い水」の2種類が存在し、通常の氷は「軽い水」が固まったものと考えられるのです。これらの存在を実際の水で示すことは困難ですが、ヨウ化スズという物質で二種類の水に相当する状態が現実に存在することを示しました。
動き続けているガラス
建物の窓やコップなどに使われるガラスには、原子や分子が不規則に並ぶ非晶質状態にあるので、結晶固体にはない、構造的な強さがあります。また、こうした不規則な配列だけでなく、とてつもない長い時間で見ると、その配列が変化し続けるのです。こうした異常緩和と呼ばれる現象の原因は、その説明の糸口が前世紀末にようやく見出されましたが、未だに完全に理解されていません。近年、こうした不規則な運動を研究する分野では、微生物に代表される、自身のエネルギーを消費しながら自発的な運動を持続する「アクティブマター」と呼ばれる物質や物体について盛んに研究されています。
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先生情報 / 大学情報
愛媛大学 理学部 理学科 物理学コース 教授 渕崎 員弘 先生
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